研究主題「細胞外環境」の研究構想の概要


 細胞の増殖と分化に関する研究は、これまで増殖因子やサイトカインのような体液中に微量含まれる液性因子を中心に進められてきたが、細胞が周囲のマトリックスに接着し、足場を確保できなければ、これらの液性因子がいくらあっても細胞は増殖することも、生存を維持することもできない。細胞外マトリックスと液性因子 は、細胞の増殖・分化を制御する車の両輪の関係にあり、細胞外マトリックスに書き込まれた情報を解読することなしに、我々の身体を構成する細胞の増殖・分化の機構を理解することは不可能である。
 本研究は、このような細胞外マトリックスの役割に注目し、細胞外マトリックスの組成や機能を積極的に改変した高機能人工マトリックスを設計・構築することにより、生体外や生体内での細胞の増殖、分化を人為的に制御する新しいキーテクノロジーの芽を探索しようとするものである。
 研究を進めるに当たっては、マトリックス分子の情報分子としての生物的な側面と超分子集合体としての化学的な側面を総合的に関連させながら進める。具体的には、臓器実質細胞の足場となる基底膜に注目し、細胞や組織のタイプに特異的な基底膜の分子組成を明らかにするとともに、基底膜蛋白質に書き込まれている細胞制御情報の実体とその細胞内への伝達機構を明らかにする。また、マトリックス蛋白質の自己組織化の分子機構を解明し、そこで得られた知見に基づき人工マトリックスの構築を試みる。さらに、液性因子を積極的に組み込んだハイブリッド型人工マトリックスを設計し、細胞の増殖・分化および組織・器官の構築を細胞外環境から制御する新たな手法を切り拓くものである。
 本研究によるアプローチは、転写因子やシグナル伝達因子を標的とした制御と比較すると、生体外や生体内での応用へのギャップが少ないと見られ、ハイブリッド人工臓器のための臓器実質細胞の生体外大量培養や生体内での組織・器官の再生に大きく貢献することが期待される。


This page updated on April 27, 2000

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