研究主題「ナノ空間」の研究構想の概要


 分子は、化学的・物理的な相互作用を通じて互いを認識し、互いに影響を及ぼしあっている。たとえば、水の沸点は、水分子一粒の性質ではなく、水素結合のネットワークからなる巨大な集合体としての性質である。このように分子と分子の間には、この水素結合の他に、配位結合・双極子相互作用・静電相互作用・疎水相互作用・ファンデルワールス相互作用など多種多様な力が作用し、たとえば、分子間での電子(電荷)の移動やエネルギーの非局在化を促している。従って、仮に、ある特定の相互作用を断ち切ったり、強調することができれば、その分子が潜在的に有する新たな機能を引き出すことも可能であろう。その1例として、分子間相互作用が抑制された孤立ナノ空間を有するデンドリマー(樹木状多分岐高分子)において、その中で極めてユニークなエネルギー変換反応が起こることが見出されている。
 本研究は、このような基本思想に立脚し、ナノメートルスケールのホスト空間に特定の分子を閉じこめ、外部との相互作用を高度に制御することにより、新たな機能を発現させる可能性を探求するものである。
本研究では、重点課題の一つとして、ナノメートルスケールの孤立空間内での物質と光の相互作用を検討する。孤立ナノ空間に閉じこめられた物質は、外部環境に存在する物質と直接相互作用することはできないが、光はそのような空間にも容赦なく進入し、閉じこめられている物質を励起することができる。通常、光励起された分子は、近傍物質との相互作用を通じて、エネルギーや電子を移動させたり、発光や振動などの様々な緩和プロセスを経て基底状態にもどる。しかし、そのような光化学過程は孤立ナノ空間内では大きく異なる可能性があり、デンドリマーの光捕集アンテナ機能の原点がここにあると考えられる。
 研究の推進に当たっては、ナノスケールホストの分子設計、ナノ空間に閉じこめられた分子の物性計測、及び、新機能の開拓を有機的に連動させる。
 本研究は、化学だけでなく、物理学、材料科学、生命科学など、科学の様々な領域と深く関わっており、大きなインパクトを与えるものと期待される。また、エネルギーの低い光を利用できる新たな光触媒の開拓等を通して、エネルギー、資源、環境、情報に対してこれまで以上の配慮が要求される次世代の科学技術に大きく貢献するものと期待される。


This page updated on April 27, 2000

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