研究主題「量子計算機構」の研究構想の概要


 20世紀中頃に発明されたコンピュータは、電子デバイス性能向上による高速化の限界が見え、21世紀を支える全く新しい計算原理として量子コンピュータが注目されている。これまでの量子計算は、量子の重ね合せ状態のコヒーレンスを保ちながら超並列的に量子状態遷移させていくものである。しかし、物理的にコヒーレンスを追及するのみでは量子計算システムは実現できない。計算という一連の人為的操作の中で発生するデコヒーレンスなど、各種誤りの下で正しく計算できる制御機構が不可欠である。
 本研究は、混合状態など既存量子計算で用いられていない幅広い量子力学全般の種々の操作を計算機構の単位操作として用い、計算出力を得る量子観測についても量子ビットの統計的処理に着目することによって、デバイスによる実現可能性を高める新たな量子計算機構を構築しようとするものである。
 研究を進めるにあたっては、量子ビットのなす状態空間の幾何構造上での量子情報理論を展開し、一方、デコヒーレンスも含めた量子回路のシミュレーションを通して、新量子計算機構のデバイスに関する柔軟性をも検証する。さらに、完全に安全なコミュニケーション方式の確立を目指すため、新たな量子暗号システムの探索等を行う。量子情報理論と量子コミュニケーションの成果をお互いにフィードバックし合うことにより、有機的結合を実現する。
 本研究により、量子コンピュータという物理から情報へと多岐にわたる先端分野を舞台として、計算幾何、計算制御という量子力学にとっても全く新しいレベルの量子計算機構によって生み出される多様な科学技術の芽を提示することが期待される。また、量子通信機構との一体化を通して、新量子技術の未踏領域の開拓に資する。


This page updated on April 27, 2000

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