本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。
望まれている炭そ病を効率的に省力防除できる農薬 |
炭そ病は、植物の葉や茎、果実などにサーモンピンクの胞子の塊(分生子層)や黒色の斑点を形成し、枯死させる病害である。本病菌による病害は約600種以上あり、イチゴやリンゴ、モモ、スイカなどの炭そ病が知られている。
特にグロメレラ シングラータを病原菌とするイチゴ炭そ病は、イチゴの生産を左右する重要病害である。イチゴ炭そ病は、潜在感染株と無病株との判別が困難であるため、潜在感染株が原苗や親株として使用される可能性がある。また、一度発生すると発病株や圃場周辺に無造作に投棄された罹病残渣(本病にかかった茎や葉)から、胞子が水滴とともに飛散して伝染し、防除がきわめて困難である。昭和62年以降、全国的にイチゴ炭そ病が大発生し、著しい苗不足や枯死株が発生するなど大きな問題となり、本病の防除が重要な課題となっている。
本病の防除には、従来、ビテルタノール、プロピネブ、ジチアノンなどの化学薬剤が用いられているが、これらの農薬は、治療用と予防用に区別されるため複数剤を交互使用しなければならない、残効期間が短いため散布回数が多くなるなどの難点があった。
炭そ病に対して高い拮抗性を示す糸状菌を用い、前接種より炭そ病を防除する微生物農薬 |
本新技術は、イチゴ組織内から分離され、炭そ病に対して高い拮抗性を示すケトミウム属などの特定の糸状菌を苗に前接種することにより、炭そ病に対する抵抗力を高め、炭そ病を防除する微生物農薬に関するものである。微生物農薬は、化学薬剤と相対する生物的防除剤の一種であり、より安全で環境負荷の少ない防除方法を確立するうえで有望な資材とされていることから、近年実用化を目指した研究が活発である。
本微生物農薬に用いる糸状菌に関して、イチゴ炭そ病に対するポット育苗試験では、本糸状菌懸濁液の1回散布の防除価は、70〜90であり、対照薬剤のプロピネブ水和剤の500倍液の4回散布の防除価(35〜60)と比較して優れた防除効果を示した。かつ、その効果が60日後まで観察され、効果の優位性及び持続性が確認されている。さらに、動物を用いた菌体及び菌体代謝物の毒性試験にて、本糸状菌の安全性も確認されている。
防除効果が高く、環境にやさしいイチゴ等の炭そ病の防除用微生物農薬として利用 |
本新技術は、
(1) | 化学防除剤と比較して、高くかつ安定した防除効果が得られる。 |
(2) | 長期間の効率的防除が期待でき、散布回数の削減が可能となる。 |
(3) | 土壌に普遍的に存在する糸状菌を用いるため、環境にやさしい防除が可能となる。 |
などの特徴を有し、イチゴ等の炭そ病の防除用微生物農薬としての利用が期待される。
・ | 糸状菌について |
糸状菌は、糸状の菌糸があるためにその存在のわかる菌の通称であり、正式な分類名ではない。ほぼカビと同義である。 | |
・ | 防除価について |
防除価は、発病を抑える効果の高さを示す数値であり、100に近いほどその効果が高い。防除価の定義は下式のとおりである。 | |
防除価 = 100-(処理区の発病件数/無処理区の発病件数)×100 |
* この発表についての問い合わせは、電話03(5214)8995 野田、小泉までご連絡下さい。
This page updated on March 3, 1999
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