「固有振動数測定による骨診断装置」の開発に成功


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景) 骨折部の治癒状況を定量的に測定できる手法が望まれていた。

 腕や脚の骨折は、交通事故、労働災害及びスポーツ外傷などによって頻繁に発生しているが、これらにはX線撮影によって診断が行われている。しかし、X線撮影は損傷の形態などを把握するには適しているが、映像のみから治癒状況を定量的に測定することには不向きである。特に、骨折部の修復した組織にカルシウムが沈着してからでないとX線では映像として捉えることができないため、初期治療のための早期診断を行うことは困難であった。
 一般に、骨折の治癒を促進するために治癒途中において骨折部に適切な加重負荷を加えることが行われているが、この開始時期及び加重の大きさを特定するには骨折部の強度を正確に把握しなければならない。これまでは、医師は経験やX線による画像に基づいて強度を推定していたため、加重負荷の開始時期を正確に定めることは困難であった。また、初期治療が適切で、その後順調な経過をたどっているかどうかや、完治の判断においてもX線撮影のみからでは難しい点があった。
 このため、骨折の治癒状況に応じて最適な治療を施し、患者の早期社会復帰を図るために、骨折部の治癒状況を定量的に把握できる診断方法の出現が望まれていた。

(内容) 骨の固有振動数を測定して、治癒による骨折部強度の上昇を定量的に測定する。

 本新技術は腕や脚の長管骨骨折の治癒状況を骨折部の力学的強度の変化として測定できる骨診断装置に関するもので、骨の固有振動数は骨折部強度に依存していることを利用している。測定では骨折した骨の一端に振動を与え、他端で固有振動を検出する。振動は極軽微であるため患者が痛みを感じたり、再骨折が発生することはない。骨折直後は骨の振動は他端には伝わらないため応答波が現れず、初期治療後1週間程度経過した時期から低い周波数の固有振動数が観測されはじめる。回復が進むに従って、骨折部の強度は増加し、これに伴い固有振動数も上昇する。診断では左右対称となっている健常な側の骨の固有振動数も同時に測定し、両者を比較することによって骨折の治癒状況が把握する。
 本骨診断装置の構成及び外観をそれぞれ図−1写真−1に示す。図−1は下腿骨の固有振動数測定の例であるが、加振器(軽量ハンマー)により皮膚を通じて下腿骨下端に極軽度の振動を与え、上端部に受振器(加速度センサー)をあてがい振動を測定する。加振波形及び受振波形は装置本体の信号処理系により周波数スペクトルが分析され、固有振動数が算出される。
 図−2はある下腿骨骨折患者の臨床治験における固有振動数の変化を示したグラフである。骨折直後は出血により血腫ができるが、振動は伝播しないため固有振動数は観測されない(T)。その後、器質化により肉芽組織が発達し(U、V)、さらに仮骨が形成されて(W、X)、骨の強度が増加し、固有振動数も上昇する(Y)。X線写真では仮骨形成期(W)以降しか画像としての治癒経過は把握できないが、固有振動数を測定することで骨折後間もない器質化期からリモデリング期までの広い範囲において骨の強度を測定できる。このため、初期の治癒状況についてその適否を早い時期に判定でき、さらに部分加重負荷及び全加重負荷による歩行の開始時期も的確に決定することもできる。

(効果) 骨折治癒時における骨強度の定量的測定方法として、骨診断への利用が期待される。

 本新技術による骨診断装置は、

(1) 脚や腕の長管骨骨折の治癒経過における強度を定量的に診断できるため、骨折の治癒を促進する骨折部への加重負荷の開始時期や負荷の大きさを的確に決定することができる。
(2) X線では診断できない治療初期の診断が可能であり、初期治療適否の適否の判断により、不適切な場合などは再処置の早期実施が可能となる。
(3) 非侵襲で簡単に測定ができ、リアルタイムで測定結果が得られる。
(4) X線診断と違って被ばくの問題がないため、定期的に測定できる。

などの特徴があり、X線撮影では検査困難な領域を補う技術として、外科部門における骨損傷の診断に利用される。
  また、近年栄養のアンバランスや運動量の減少による若年層の骨の発育障害や高齢者の骨粗鬆症の増加が報告されているが、本骨診断装置は骨の強度がわかるため、今後データを蓄積することにより、このような骨の障害などの診断への応用も期待できる。

(注1) 骨折部の固定不良や過剰牽引などにより骨折治癒に要する日数を過ぎても骨癒合が得られず、このまま骨折治癒作用が沈静化してしまい骨折部が可動性を示す症状(偽関節)がまれに発生することがある。このような異常の場合には、振動数の上昇(骨折部強度の増加)が観測されないため、本骨診断装置により早期に発見し対処することができる。

This page updated on August 27, 1999

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