「量子井戸構造半導体赤外線(3〜5μm)レーザ素子の製造技術」の開発に成功


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景) 地球温暖化や大気汚染など地球環境の計測や通信、医療において、固体素子を用いた中赤外線レーザが強く望まれていた。

 近年、地球温暖化や大気汚染など環境計測や通信、医療において、固体素子を用いた中赤外線(2〜15μm)レーザが強く望まれていた。特に、波長3〜5μm帯域のレーザは、地球温暖化や大気汚染の原因と言われている一酸化炭素や二酸化炭素、メタン、アンモニア等のガスにおいて吸収があり、大気中のこれらのガス検出や濃度測定に利用が期待されている。また、その帯域は、大気中の水分による吸収を受けにくく、大気中を広く計測することが可能である。さらに、空間光伝送による通信分野においても利用が期待されている。
 このため、常温に近い温度(200K以上[液体窒素などの冷媒や振動を伴う冷凍機などでの冷却が必要なくペルチェ効果を利用した電子冷却素子で動作])において波長3〜5μmで発振する半導体赤外線レーザが強く望まれていた。

(内容) 蒸着膜昇華法を用いたホットウォールエピタキシーにより良質の半導体結晶薄膜を形成することにより実現

 本新技術は、蒸着膜昇華法を用いたホットウォールエピタキシーによりPbSを結晶成長させた半導体赤外線レーザの製造に関するもので、活性層を多重量子井戸構造とするとともに、クラッド層と活性層とのエネルギーギャップ差を大きくすることにより、電子冷却素子による冷却で動作可能な波長3〜5μmで発振する半導体赤外線レーザを製造するものである(図1)(図2)。 
 本新技術による半導体赤外線レーザの主な製造工程は以下のとおりである(図3)。

(1) バルク単結晶作製工程
 原料の移動を硫黄分圧で制御するカルコゲン蒸気圧制御封管気相成長法によりPbS単結晶を得る。
(2) ウェハ作製工程
 単結晶をワイヤソウで切断し、X線回折測定により結晶面方位を確認して、両面を研磨することでPbSウェハを得る。
(3) 薄膜結晶成長工程
 ホットウォールエピタキシーよる薄膜結晶成長装置により、PbSやPbSrS薄膜単結晶を成長し、量子井戸層、障壁層、n型・p型クラッド層など多重量子井戸の半導体レーザ構造を形成する。
(4) ストライプ構造の作製工程
 フォトリソ技術等により、ストライプ構造、電極構造を作製する。
(5) 組立工程(チッピング・ボンディング)
 ウェハを劈開によりチップに切り出し、パッケージ実装をおこない素子化する。
 本開発により作製したレーザ素子は、200Kの温度にて、発振波長3μmで繰り返し周波数1kHz、ピーク出力1mW以上で5000時間以上の発振を確認し、製品化の見通しを得た。
(効果) 地球温暖化や大気汚染に関する大気中ガスモニターや光通信などにおいて利用が期待される。

 本新技術による半導体赤外線レーザは、地球温暖化や大気汚染に関する大気中ガスモニターや光通信などにおいて利用が期待される。また、液体窒素での冷却が必要ない電子冷却素子で動作する半導体中赤外線レーザであるため、小型で信頼性が高い。


This page updated on August 6, 1999

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