ホームJSTについて情報の公開・個人情報保護機構の評価に関する情報(参考) 科学技術振興事業団(平成14年度まで)の評価結果平成10年度評価結果(技術移転推進事業)評価報告等第2部 評価結果 3.技術移転推進政策

第2部 評価結果


4.技術移転推進政策

 事業団の実施する事業自体に対する評価は以上の通りであるが、今回の機関評価の過程においてはこれらの事業を含め我が国における技術移転の状況を全体として見た場合のいくつかの課題にも言及されたので、事業団ばかりでなく政府においても技術移転に関する施策を考えていく際には考慮していただきたい。

(1)

事業団における技術移転推進事業と日本における技術移転

事業団の技術移転推進事業はこれを構成する個別事業をみるとそれぞれ高く評価出来る事業である。とりわけ事業団の推進体制、特に担当者の数を念頭に置いて考えると、人数のわりに個々の事業を極めて地道に効率よく進めていると評価することが出来る。これは事業団の組織としての士気の高さを示すものであろう。しかしながら、これらの個別事業により我が国における技術移転が目に見える形で促進されたかという問題は別の課題として存在する。
本来、技術移転の本質は人材の流動を伴うものであり、人の移動を伴わない技術移転はその効果を発揮しにくいという特質がある。我が国においては組織内部における人材の移動はかなり柔軟に行われているが、組織間、いわゆる産学官のようなセクター間での移動は必ずしも盛んではない。
科学技術基本計画においても「我が国の研究開発については、これまでの発展を支えてきた様々なシステムに内在していた様々な要素が、社会、経済、国際環境等の変化により、研究開発を推進する上で、柔軟性や競争性が低く、組織の壁を超えた連携・交流等が十分に行えないなど制約として顕在化している面がある」と指摘した上で、セクター間の研究者の人的交流を促進すべきとしている。
技術移転に関する施策の立案に当たっては、セクター間の人材の自由な移動の実現という究極的な目標に近づくという観点から我が国のこれまでのシステムの変革に向けた大局的な施策を着実に実施していくことが必要であると考える。そのような全体的な構図の中で考えてみると事業団はこれまで基礎的研究の推進に当たり創造科学技術推進事業にみられるように積極的に人材の流動化を図り内外から評価を得てきており、今後の技術移転推進事業の展開に当たってもこのような考え方を取り入れていくことが求められる。

(2)

スパイラル的な視点も含めた全体の体系化

これまでの事業団の技術移転推進事業は、大学、国公立試験研究機関等での研究成果を実用化まで結びつけていく流れをどのように作るか、例えば、仲介する、あるいは実用化に向けた流れを促進するというような仕組み作りを中心に行われてきた。これは基本的には一方向に向けた流れを前提とした考え方に基づいたものであるが、今後はスパイラル的(らせん的=基礎研究から実用化へ向けて順々にということだけではなく、製品開発の途中で基礎的な研究テーマに戻るというようなことが様々な段階でおこりうるので全体を立体的に理解した方が現実にあうということから三次元を表す「らせん的」という用語を用いたもの)な動きも視点に含めた事業展開や事業間の体系化を考える必要性も出てきている。
もう少し広い見方をすると、スパイラル的な動きをする大学や企業の研究者をその場、その時に応じて最もふさわしい技術移転関連施策で支援していくことが肝要であり、事業団に対しても研究開発全体のスパイラル的な構造の様々な段階において多岐にわたる活動が求められていこう。

(3)

透明性の向上

我が国では戦後、産業界と大学の連携が十分ではなかったことを反映し、大学等の研究者が特許を取得したり、大学等で発生した特許を中心とする研究成果を民間企業に技術移転するためのシステムが機能していたとはいえない。近年、各地の大学に共同研究センターが設立され民間との共同研究も積極的に推進されているものの、長い間、大学等における特許取得体制が整備されていなかったことから、大学の研究者が自ら特許を取得するインセンティブに乏しく、知的所有権に対する認識も十分育っていないのが現状である。その結果、研究者は発明者として名を連ねるだけで、企業が自らの名前で出願し、奨学寄付金という形で研究者に対して資金を還流するという産学間の不透明(表面化しない)な関係の成立を促してきた。
これに対し事業団の制度は、利用することに伴いどのようなテーマを取り上げているか等の事実が明らかになるという意味で、透明性に立脚した事業である。我が国におけるこれまでの不透明な関係を事業団の諸制度が、直ちに改革するような効果は必ずしも期待できないが、少なくとも周囲に支援体制のない研究者や個人的に企業とのつながりのない研究者に対しては有効であり、これまで啓蒙活動を含めて多くの課題の掘り起こしを行ってきたことには相当の意味が認められる。
産学間の関係は基本的に研究者と企業の良識の問題であるが、科学技術基本計画の実施により教官等の兼業規制が大幅に緩和されたので、企業における活動は兼業に基づき企業で行い、大学において発生した特許権等については発明者の寄与を正当に評価し発明者としてのリターンが得られるようなコントラクトを企業との間で締結してその実施化を進める方向に移っていくべきである。一方、透明性の下で行う以上、企業にとってもきっちりしたメリットのある魅力のあるシステムにしないと利用しにくいのは言をまたない。
以上のことを十分に考慮し、今後政府において技術移転に関する制度を改革、創出していく際には、これまでの我が国の慣行を少しでも改善する実例を積み重ねるような政策(制度)を実施し、透明化した方がよいものはできるだけその方向に近づける流れをつくる努力をしてほしい。このような観点から事業団の事業の展開には大きな期待をしたい。

(4)

我が国において技術移転を促進するための政策的措置の必要性

科学技術基本法、科学技術基本計画により、我が国の将来を見据え新産業の創出の重要性が指摘されており、そのために様々な措置が講じられるようになった。また、昨今の経済状況も反映し、総合経済対策を図るための補正予算の一部に科学技術関係の予算も計上されてきた。
科学技術の振興に政策的重要性が認められる中で、これまで我が国が弱いとされてきた基礎的、戦略的な研究に光をあてることはもとより望まれていたことであるが、新産業の創出という意味では研究成果を如何にマーケットにつなぐかということが、我が国の今後にとって最も重要な点である。このような仕事は研究成果をオープンにしさえすれば関心のある企業等がこれを活用していくというような単純なものではなく、地味ではあるが着実に人手をかけて育てていかざるをえないものであり、そのためのシステム自体も他の国に先例を見つけられるようなものではない。
研究成果の実用化を支援する仕事は事業団だけでなく通産省、郵政省をはじめとする関係機関においても行われているが、そのオーバーラップをいう以前にトータルとしてみても、我が国におけるこのような仕事の必然性と比べ十分な人的、資金的資源の配分がされているとは思われない。研究成果の民間への移転と新産業の創出を真剣に考えるのであれば基礎研究とバランスを取って資金、人材の配分を行うとともに社会システムの変換に本気で取り組む必要がある。なお、現在行政機構の変革が行われつつあるが、このような仕事が文部科学省で行われることには、公的部門の研究成果を事業官庁や産業界へ結びつける接点、窓口として重要な意義が認められる。また、補正予算は景気の浮揚を図るため不可欠であることは認めるものの、年度内の実施義務を緩和するなど、より事業の効果があがるような形で使えるよう制度上の柔軟性を持たせるべきである。
技術移転自体は本来は民間のマーケットにおける活動に委ねるべきものであり、国が不必要に関与することは避けなければならないが、我が国においては公的機関の研究成果を民間企業に移すための社会的基盤は十分には出来ておらず、また放っておいてもそのような基盤が出来るまでには時間を要するので、国として補完すべきものであり、その限りにおいては国民一般からの支持もあるものと思われる。今回の機関評価の対象となった事業に関しても、それぞれの箇所で言及した委員会としての意見は実現していただくことを踏まえ、事業団の技術移転推進事業自体の意義や必要性は今後も増えこそすれ減ることはないものと考える。
我が国における技術移転の推進についてはいろいろな努力が行われつつあるが、まだ試行錯誤という面もある。新たな研究開発による新規事業の創出が強く求められている今日、政府の科学技術関連部局におかれては技術移転全体の体系的な展開に向けた取り組みに対して十分な支援を行い、我が国の将来に向けての発展基盤を確立していただきたい。


This page updated on June 21, 1999

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