研究主題「液晶微界面」の研究構想(概要)


 フラットパネルディスプレイに広く応用されている液晶は、棒状あるいは円盤状の有機分子が作る特殊な液体である。ミリメートルに及ぶ巨視的領域にわたって分子が向きを揃え、その方向は外部電場や界面状態に敏感に応答する。この分子配向の柔らかい秩序を活用して液晶ディスプレイが実現されている。ミクロに見ると液晶状態は、分子集団が自ら発生する強烈な分子トルクによって、分子が自己配向することでもたらされる。このような分子間の協調が生み出す分子トルクが人為的に制御できれば、液晶に限っても格段に多様な光物性や界面特性の実現が可能となり、ディスプレイを超えた液晶の新たな応用展開が拓かれると期待できる。その一方で、液晶における分子トルクは、数ナノメートルから数100ナノメートルのメゾスコピック領域を通じて階層的に形成されるもので、その解明は、理論的にも実験的にも、液晶研究の最後のフロンティアとして残されているのが現状である
 本研究は、液晶性発現の真の舞台であるにも関わらず、これまで未開拓であったナノメートル領域の液晶に焦点をあて、液晶の階層構造と物性を実験・理論の両面からシステマティックに解明し、メゾスコピック液晶科学という新分野を開拓することを目標とする。数ナノから数100ナノメートルの人工的なナノ構造体と液晶分子との複合構造体(これを微小界面の集積体という意味で"液晶微界面構造"と呼ぶ)を目標への独自のブレークスルーとして導入し、とくに空間規則性のある複合構造における液晶の挙動を観測することで、液晶の機能発現の仕組みとその人為的制御の方策を探求する。走査プローブ加工技術を中心としたナノテクノロジーからのアプローチと、液晶の特性を活用した自己組織法の2つの相補的なアプローチを液晶微界面の構成法として採用し、液晶微界面構造における相転移の観測や計算機シミュレーションに基づいて、階層的な分子集合構造と分子場形成との関連(すなわち液晶性の本質)を解明する。
 本研究によって、液晶研究とナノテクノロジーの合流に基づく新しい液晶科学の創出が期待されるとともに、自己組織型のフォトニック機能液晶の創製をはじめとして、ナノ構造制御に基づく高速高効率液晶デバイス、有機無機ハイブリッド量子効果素子など、次世代情報エレクトロニクスを支える新規デバイスの創出が期待される。


This page updated on May 20,1999

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