研究主題「多体相関場」の研究構想(概要)


 20世紀後半の物理研究における顕著な方向性の一つとして、固体・液体などの相互作用粒子系の性質を量子力学によって解明しようというものがある。ヘリウム(4He)の超流動や金属超伝導はボーズ粒子系の典型的な相互作用効果に由来する現象として早くから知られている。一方、フェルミ粒子の代表である電子系についても、ボーズ粒子とは質的に異なる粒子相関現象が現れることが分かってきた。これらの相互作用系では、粒子間の相関を反映した多粒子状態が系の性質を決めるうえで重要な役割を果たす。上記の超流動や超伝導など、粒子相関がコヒーレントな性質をもつとき、粒子系全体が空間的な秩序性を示す場合があり、このような秩序性の発見に端を発して、これまで数々の物性研究が展開されてきた。しかし、その多くはボーズ粒子系に関するもので、フェルミ粒子系については、ほとんど研究が進んでいない。
 本研究は、電子系の粒子相関に焦点を当て、数十ナノメートルスケールの微視的量子構造を単位として、これを人為的に組み合わせることにより巨視的にコヒーレントな秩序性をもつ構造(多体相関場)を作りだすとともにその秩序性を記述するための量子力学的理論を構築しようとするものである。人工原子(半導体間の微細な空間に電子を閉じこめた構造)などの低次元の構造において、電子は顕著な量子状態をあらわすため、まずその中でのコヒーレント性と電子相関の関係を明らかにする。さらにこれらをそれぞれ複数個組み合わせ、よりマクロなスケールの電子相関で支配される秩序状態を実現し、その量子力学的性質を明らかにする。また、強磁性体、超伝導体、半導体との接合を利用して、電子−光子などの異種粒子間の相関現象を探究し、物性物理の新しい分野を開拓する。
 本研究により巨視的秩序構造を舞台として、さまざまな量子力学的基本仮説の検証ができるだけでなく、異種物質を微細に組み合わせた構造における新しい量子現象の発見、例えば、電子のコヒーレント状態を利用した量子コンピューティングや異種接合の超伝導あるいは強磁性的性質を取り入れた電子デバイス、などの新しいデバイス概念の出現などが期待される。また、それに関連して高品質な結晶を作成する技術、高精度な極微細加工技術、極限環境下での測定技術等の進展が期待される。

人工原子、分子を基本構造として多体相関電子系、コヒーレント相互作用系等の新しい電子物性分野を開拓する。


This page updated on May 20, 1999

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