研究主題「バイオリサイクル」の構想


 今日、地球レベルでの環境問題がクローズアップされてきたが、このことは私たちに"地球は一つ"といった地球共生系の概念を想起させた。特に熱帯地域は多種多様な生物が生存し、お互いに複雑な共生系ネットワークを形成して棲息している。このような広大なバイオマス資源をかかえた熱帯地域の物質循環(バイオリサイクル)において土壌動物−微生物共生系は非常に重要な役割を果たしている。熱帯地域の森林やサバンナにはシロアリの"アリ塚"が沢山見られる。また、チンパンジーが木ぎれを道具として使って"シロアリ釣り"をすることは良く知られている。食物連鎖においてシロアリは重要な蛋白源と考えられている。このように熱帯の陸上生態系において最も繁栄し、物質分解に最も重要な役割を果たしているシロアリは、多様な微生物たちと多層な共生関係を結ぶことによって、地球上に最も多く存在する植物資源の非常に効率的な分解・再資源化に成功した。しかし、このシロアリ−微生物共生系の研究はほとんど進んでいない。
 本研究では、シロアリ−微生物共生系が熱帯地域の物質循環(バイオリサイクル)に重要な役割を果たしていることに着目し、シロアリ共生微生物の機能を分子や物質のレベルから明らかにするとともに、シロアリの生態系機能、シロアリと共生微生物の共進化のメカニズムを明らかにすることによりシロアリ−微生物の多層な共生システムの解明を目指す。また、シロアリ−微生物共生系の持つ強力な植物資源の代謝機能の解明・応用を目指す。
 本共同研究では、具体的に次の事項について研究を進める。

1. シロアリは熱帯の森林とサバンナを代表する昆虫である。現在2,200種のシロアリが知られていて、その大部分が熱帯、亜熱帯に分布している。このうち熱帯アジア地域に棲息する主なシロアリの分布、食性、分子系統に関する調査・研究を行う。
2. シロアリは、セルラーゼを作る原生生物・バクテリア・菌類だけでなく、空中窒素を固定する窒素固定菌やメタンを作るメタン生成古細菌とも共生関係を持つことによって植物遺体を再資源化することに成功した。しかし、シロアリ腸内の微生物の大半は非常に単離・培養しにくい微生物であると考えられる。そこで、この様な共生微生物に培養を介さないで直接アクセスする手法の開発を行い、これを用いて熱帯シロアリ−微生物共生系の構造と機能を分子や物質のレベルから解明していくことを目指す。
3. シロアリはその生活様式・社会性を進化させることにより共生系微生物とも新たな関係を結ぶようになってきた。例えばC−N(栄養)バランス問題や腸内の特殊化(アルカリ化)を通じて新しい機能を持った微生物と共生関係を結ぶようになってきた。この様な共進化を利用した従来の常識を破る新しい生物機能の発見・解明を図る。
4. シロアリは、多様な微生物たちと多層な共生関係を結ぶことによって、地球上に最も多く存在する植物資源の効率的な分解・再資源化に成功した。この様なシロアリ−微生物共生系の持つ強力な植物資源の代謝機能の解明・応用を目指す。

 これら研究において、日本側は主にシロアリ−微生物共生系の研究を、タイ側はシロアリの生態学的機能に関する研究を双方が協力しながら行う。本研究により、共生系を利用した従来の常識を破る新しい生物機能の発見・解明につながり、生態系の維持と進化の機構の先駆的な研究となり、生態学に与えるインパクトが大きい。またこの知見は、熱帯生態系における物質循環システムの保全や生態系の土壌改善、将来的には熱帯林の再生・保全にも大きな貢献が期待される。また、この地球上に無数に存在する培養困難な微生物に直接アクセスする手法により従来にない新規酵素・生理活性物質等の発見が期待できる。シロアリのメタン生成量は、全体のおよそ5-10%と考えられており、このメタン循環のメカニズムを解明することによって地球温暖化の抑制も期待できる。


This page updated on March 18, 1999

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