本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。
望まれる磁気記録の高密度化に対応した微小磁区観察技術 |
エレクトロニクス分野の急速な進展に伴い、磁気ハードディスクや磁気テープ等の磁気記録媒体における記録情報量の高密度化が進んでいる。情報を記録する際に単位情報量当たりの磁区面積も微小化が進み、ハードディスク分野では1990年代以降、10年で情報記録密度が100倍となるペースで開発が行われている。記録密度は1996年で1Gビット/(インチ)2を超えるところまで到達しており、2000年前後には10Gビット/(インチ)2(ビット長:0.1μm程度)を越えるレベルに達すると見込まれている。このように今後一層磁区の微小化が進むことに伴い、磁気記録用材料の研究開発あるいは磁気記録媒体の生産工程における検査のため高い二次元分解能を有する磁区観察手法が望まれている。
磁性材料等に電子線を照射し、発生する二次電子のスピン状態を測定することにより、 材料表面の磁化状態を観察 |
本新技術は、試料表面に電子ビームを照射し、試料表面から放出される二次電子のスピン状態を検出することにより磁性材料等の表面の磁化状態の観察を行う装置である。二次電子のスピン状態が試料表面磁化を反映していることから、表面磁区を観察することが可能である。
二次電子のスピン状態を利用した磁化状態観察における分解能は、現状では0.1μm程度であるが、原理的には照射電子ビームの径を十分絞れば分解能をさらに向上させることができる。また、装置の構造は走査型電子顕微鏡(SEM)に近く、特別な試料準備を必要とせず、また直径10cmを越える試料もそのまま観察することができ、簡便に磁性材料等表面の磁化状態を観察することが可能である。しかしながら、二次電子のスピン検出器として用いられるモット型スピン検出器(注)を含む検出系の感度が低い、あるいは対物レンズに用いている磁界形電子からの漏れ磁場により試料の磁化状態を擾乱させないよう対物レンズと試料との距離を取る必要があることから、電子ビームの微小径への絞り込みが困難であった。このため、二次元分解能はサブミクロンレベルに止まっていた。
研究者は、これまでに高感度かつ小型のモット型スピン検出器の研究を進めている。さらに、試料から発生する二次電子を集め、検出系に移送する二次電子コレクターの構造として、多段の静電形レンズを内部に配することを提案した。これにより、試料表面から広角度で放出される二次電子を二次電子コレクターで捕捉し、集束しながら効率よくスピン検出器へ移送することが可能となった。また、磁界形の対物電子レンズに磁気シールドを付加することにより、試料面上への磁場の漏れを低く抑えることを確認した。これら技術を用いることにより電子ビーム径を小さくし、二次元分解能を0.02μm程度にすることが可能となる。
本装置では、磁性体表面の微小磁区を観察するため、試料表面にビーム径を絞り込んだ電子ビームを照射しながら観察対象領域内を走査する。放出された二次電子は、スピン状態を測定するモット型スピン検出器に導入され、磁区の二次元画像を得る。本新技術によるスピン電子顕微鏡は、電子源、電子光学系、二次電子移送・検出系、画像処理系などから構成される。
ハードディスク等の磁気記録媒体の研究開発や検査工程で利用 |
本新技術によるスピン電子顕微鏡は、
などの特徴を有し、
などに利用されることが期待される。
(※)この発表についての問い合わせは、電話03(5214)8995 野田または出村までご連絡下さい。
This page updated on March 3, 1999
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