研究課題の概要



1. 研究領域「生命現象(脳の機能)」
研究代表者:井原 康夫
所属・役職: 東京大学医学部付属脳研究施設 教授
研究課題名: アルツハイマー病における神経細胞死の研究
概   要: アルツハイマー病における老人斑形成の解明につながる、アミロイドβプロテイン代謝のホメオスタシスの破綻の研究、及び臨床上の痴呆につながる神経細胞死における神経原線維変化のメカニズムなどを解明することにより、ヒト中枢神経系の老化の一端と、その最終的帰結である神経細胞死への経路を明らかにする。
研究代表者:河野 憲二
所属・役職: 工業技術院電子技術総合研究所 首席研究官
研究課題名: 「運動指令構築の脳内メカニズム:運動制御から認識へ」
概   要: 動物の滑らかで素早い運動がどのような神経機構によって実現されているのかを明らかにすることを目標とし、計算論から提案されている「脳は、その中にある制御対象(筋肉等)の内部モデルを使って運動指令を作り、運動を実現している」という仮説を、生理学、解剖学、行動学実験と計算論を有機的に組み合わせながら検討する。動物の巧みな運動制御のメカニズムの解明を研究成果として見込んでいる。
研究代表者:田中 啓治
所属・役職: 理化学研究所情報科学研究室 主任研究員
研究課題名: 人間の高次精神過程に関わるコラム構造・配列の研究
概   要: MRI装置を用いた脳活動非侵襲計測法で人間の大脳皮質連合野の研究を行う。超高磁場を用いることで高い空間分解能を持ったMRI非侵襲計測法を開発し、人間の大脳皮質におけるコラム構造を検出する。さらに高次精神過程に関わるコラム配列の空間構造を調べて、大脳皮質におけるコラム構造の機能的意味を明らかにする。
研究代表者:野田 昌晴
所属・役職: 岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所 教授
研究課題名: 神経ネットワーク形成の遺伝子プログラム
概   要: 1つの受精卵から個体が形成される過程で脳神経系が形成される仕組みを明らかにする研究を行う。特に神経細胞が移動する時、神経細胞が突起を伸ばし始める時、また神経細胞が自分の結合する相手を見つける時に働いているメカニズムを明らかにする。
研究代表者:藤澤 肇
所属・役職: 名古屋大学大学院理学研究科 教授
研究課題名: 神経結合の形成、維持、再編成を制御する分子機構の解明
概   要: 神経細胞接着分子プレキシンファミリーに注目し、マウス神経系に発現するプレキシンファミリー分子を網羅的に分離・同定し、それらの神経系での発現制御の実体を明らかにするとともに、標的組み替えによりプレキシンファミリー遺伝子を破壊したマウスを系統的に作出することで、神経結合の形成と維持、強化、再編成の分子機構を明らかにする。
研究代表者:三品 昌美
所属・役職:東京大学医学部 教授
研究課題名: 脳形成遺伝子と脳高次機能
概   要: 記憶・学習には発生・分化の分子機構が組み込まれているとの考えから、ゼブラフィッシュ分子遺伝学を用いて、脳の形成や神経回路網の整備に関与する遺伝子を系統的に単離し、これらに対応するマウスの遺伝子を時期及び脳の部位特異的にノックアウトすることにより記憶・学習の分子機構の全体像に迫る。

2. 研究領域「生命現象(生命活動のプログラム)」
研究代表者:浅島 誠
所属・役職: 東京大学大学院総合文化研究科 教授
研究課題名: 試験管内での器官形成の分子生物学的研究
概   要: 未分化細胞塊アクチビンなどを加えることにより、血球、脊索、腎臓、心臓などの器官形成が可能となるという知見をもとに、これらの器官形成に関与する遺伝子のクローニングと解析を行って、現在まで誰も成功していないinvitro系での単独の臓器としての膵臓、生殖器官、肝臓、脾臓、中枢神経をinvitro系でつくり出す。上記の器官形成に関与する遺伝子のカスケードとマスタージーンを明らかにする。
研究代表者:石浜 明
所属・役職: 国立遺伝学研究所分子遺伝研究系 教授
研究課題名: ゲノム全遺伝子の発現ヒエラルキー決定機構の解明
概   要: 本研究では「DNAをRNAに転写する"転写装置"が、利用する遺伝子を選択し、またその利用の程度を決定している」いう仮説のもとに、利用する遺伝子、またその利用の程度、即ち遺伝子発現のヒエラルキーが決まる仕組みを解明する。このことにより、生物の発生・分化・進化・老化などの基礎的研究に貢献するものと思われる。
研究代表者:押村 光雄
所属・役職: 鳥取大学医学部 教授
研究課題名: ゲノムインプリンティング制御の分子機構
概   要: ゲノムインプリンティングとは、父由来と母由来の遺伝子が異なる発現パターンを示す現象である。この由来の異なるヒト染色体を含むマウス細胞を用いて、(1)未知のインプリント遺伝子の単離、(2)染色体上の遺伝子がどのように父母由来を認識するかなどを解明する。これらの研究を通じて、ゲノムインプリンティングの生物学的意義が解明されるばかりでなく、従来の遺伝様式では理解できなかったような表現形質をゲノムインプリンティングで説明出来るようになると考えられる。
研究代表者:甲斐荘 正恒
所属・役職: 東京都立大学理学部 教授
研究課題名: 安定同位体利用NMR法の高度化と構造生物学への応用
概   要: 構造生物学の基本技術として、X線解析法とならんでNMR技術の役割が急速に高まりつつある。本研究では 13C、15N、2H等の安定同位体を高度に利用した新しいNMR解析技術の開発を通じて、(1)蛋白質・核酸の立体構造決定の迅速化・高精度化;(2)分子量5万を越える高分子蛋白質複合体への構造解析技術の確立;(3)動的反応過程の経時的観測技術の高度化等、"構造→機能"に至る様々な方法論の開発を目指す。
研究代表者:木下 一彦
所属・役職: 慶応義塾大学理工学部 教授
研究課題名: 一方向性反応のプログラミング基盤
概   要: 生命活動のプログラムの基盤ユニットは、さまざまな反応を特定の方向に進めるメカニズムであり、これらのオンオフにより、複雑なプログラムが構成される。基本となる一方向性反応を担う、1分子で機能を発揮する「蛋白質分子機械」が、どのように働くのか、分子内で何が起きているかを、光学顕微鏡の下で、1分子が働いている現場を直接「見て操作する」ことにより解明する。これらを通じて、1分子生理学・1分子工学という新しい領域の開拓を目指す。
研究代表者:鈴木 理
所属・役職: 工業技術院生命工学工業技術研究所 室長
研究課題名: 超好熱性古細菌転写因子ネットワークの構造生物学的解析
概   要: 超好熱性古細菌の転写系(真核生物転写系の簡略版)を構造生物学とゲノム生物学の立場から解析する。前者は生体高分子の構造を介して生物学上重要な現象を解明する学問であり、後者はある生物学をそのゲノムの構成から有機的に解明する学問である。キャッチフレーズは"古細菌を調べればヒトが分かる"。
研究代表者:野田 哲生
所属・役職: (財)癌研究会癌研究所 部長
研究課題名: 変異マウスを用いた発癌制御遺伝子の単離・同定の試み
概   要: ヒト大腸癌はがん制御遺伝子であるAPC遺伝子の変異により発生することが知られているが、生体にはこの発癌過程を制御したり促進したりする機能を持つ遺伝子群が存在する。本研究では、我々が樹立に成功した大腸腺腫症モデルマウスの遺伝学的背景の均一性を利用して、遺伝学的手法を駆使することにより、この大腸発癌過程を制御する遺伝子群の単離・同定を行う。こうした発癌制御遺伝子群の同定とその機能の解析こそ、まさに大腸癌の発生予防や治療への道を拓くものである。
研究代表者:柳田 充弘
所属・役職: 京都大学大学院理学研究科 教授
研究課題名: 細胞周期における染色体制御に必須な高次複合体の研究
概   要: 子孫細胞への正確な染色体の分配、核内ゲノムDNAの安定維持にとって、いくつかの巨大分子複合体が必須であるという知見を得た。これらの複合体の活性を同定し、構成する遺伝子産物の機能を深くかつ統合的に研究し、細胞周期における染色体制御について明らかにする。これら複合体の機能を把握することにより、がんや多様な症状の多くの症状をひきおこす染色体異常の原因が理解され治療への道も開かれる。

3. 研究領域「生命現象(生体防御のメカニズム)」
研究代表者:菅村 和夫
所属・役職: 東北大学医学部 教授
研究課題名: サイトカイン機能不全の分子機構と遺伝子治療
概   要: 本研究では、サイトカイン機能発現制御に関わる様々な細胞内シグナル分子を同定し、サイトカイン機能不全を伴うヒト免疫疾患の原因を究明する。これら原因遺伝子をもとに免疫不全症の遺伝子治療法を開発する。
研究代表者:田中 啓二
所属・役職: (財)東京都臨床医学総合研究所 部長
研究課題名: 超分子システムによる免疫識別の分子機構解明
概   要: 本研究ではプロテアソーム(200万の巨大な多成分複合体であり、生化学史上他に例を見ない超分子システム)の高次構造や分子集合機序の解析を通して免疫識別の分子機構を解明し、この超分子システムの免疫始動制御における役割の解明を目指す。これにより、免疫識別の破綻に基づく免疫病の克服や新しい細胞性免疫の確立が期待される。
研究代表者:谷口 克
所属・役職: 千葉大学医学部 教授
研究課題名: 自己免疫制御の分子基盤
概   要: 本研究では、免疫制御を専門とする全く新しい免疫細胞系列として登場してきたVα14NKT細胞の分化機構、機能発現のメカニズムとその分子の同定、Vα14TCRのリガンドの同定を行うことによって、免疫制御システムの分子メカニズムを明らかにし、自己免疫病治療法の開発を行う。
研究代表者:福島 昭治
所属・役職: 大阪市立大学医学部 教授
研究課題名: 環境発がん物質の低濃度発がんリスクの解明
概   要: 本研究においては遺伝子操作動物あるいは新生児動物などを用いて従来の発がん試験法とは全く異なった発がん中期検索法を開発する。また、発がん中期検索法を用いて、いくつかの重要な環境発がん物質についてヒトが実際に曝露されるであろう低濃度域における発がん性を検討する。さらに発がん物質の低濃度曝露と発がん性との関連性、および発がん機序解明をも行う。
研究代表者:前田 進
所属・役職: 理化学研究所分子昆虫学研究室 主任研究員
研究課題名: 昆虫ウイルスと宿主との分子応答機構とその応用
概   要:  本研究ではウイルスと細胞間での宿主域決定の分子機構、ウイルス遺伝子で宿主に働きかける遺伝子や、アポトーシスに関与した遺伝子の同定と解析を行う。また、さまざまなレパートリーを持つ抗体遺伝子をバキュロウイルス粒子に発現させるdisplasy virus、数種の外来遺伝子導入により複合糖鎖の付加を可能にするウイルス、サソリ毒の分子変化を昆虫の行動で解析できるウイルスなど、新しいバキュロウイルスのベクターシステムを開発し、医薬、農薬への応用も行う。
研究代表者:松島 綱治
所属・役職: 東京大学医学部 教授
研究課題名: 炎症反応分子機構のIL8,接着因子を中心とした解析
概   要: 本研究では (1)IL8ならびにケモカインの様々な炎症・免疫反応モデルでの病態生理作用の確立 (2)ケモカイン受容体のシグナル伝達機構の解析ならびに抗体、特異アンタゴニストの開発 (3)白血球接着の病態生理学的意義の確立と、細胞接着因子を介したシグナル伝達機構の解析 (4)様々な生体侵襲因子(サイトカイン、微生物由来分子)によるケモカイン遺伝子活性化機構の解析とそれを基礎とした新しい抗炎症・免疫抑制剤の開発を目的とする。

4. 研究領域「極微細領域の現象(量子効果等の物理現象)」
研究代表者:家 泰弘
所属・役職: 東京大学物性研究所 教授
研究課題名: 微細構造におけるスピン量子物性の開拓
概   要: 微細加工や自己形成によって磁性体を含む微細構造を作製し、高感度局所物性測定技術を用いてスピン自由度に関連した新奇な量子現象を開拓することを目指す。本研究により、高密度磁気記録における量子ゆらぎによる限界の解明や、微細構造特有の量子効果を利用する新しい機能材料の探求につながるものと期待している。
研究代表者:大塚 洋一
所属・役職: 東京大学低温センター 助教授
研究課題名: 金属微細トンネル接合システムの物理と素子応用の研究
概   要: 次代を担う新しい電子素子の原理として、微少トンネル接合で生じる個々の電子の間歇的な量子力学的トンネルによる移動を応用したデバイスが有力である。この研究では、そのような極めて小さな接合における新しい物理概念の検証を行うと共に、素子作成のための技術開発及びエレクトロニクス応用に向けた基礎研究を行う。
研究代表者:岡 泰夫
所属・役職:東北大学科学計測研究所 教授
研究課題名: ナノ構造磁性半導体の巨大磁気光学機能の創出
概   要: 磁性イオンを含む半導体を素材として、極微細構造を設計・作成し、通常より100~10,000倍磁気に敏感な光学特性を創出する。また、この新規な光学特性を活かした「磁場に極めて敏感なナノ構造磁性半導体デバイス」の基礎と応用を確立する。
研究代表者:小宮山 進
所属・役職: 東京大学大学院総合文化研究科 教授
研究課題名: 量子構造を用いた遠赤外光技術の開拓と量子物性研究
概   要: 量子ドットや多重量子井戸等の半導体量子構造を用いることによって遠赤外~赤外領域の技術のブレークスルー的進展をはかるとともに、それらを応用して2次元電子系の示す量子輸送現象の理解を格段に進展させる。本研究により遠赤外単一フォトンの検出、連続発振連続波長可変レーザーの開発、電子系のエネルギー及び運動量分布の局所的測定及び強磁場下2次元系の位相干渉長の絶対的測定等の成果が期待できる。
研究代表者:山中 昭司
所属・役職: 広島大学工学部 教授
研究課題名: ナノ物質空間の創製と物理・化学修飾による物性制御
概   要: ナノスケールの空間を有する新物質を探索、設計、合成し、その隙間への異質原子および分子の挿入、光励起により、物性を自由に制御できる新材料の開発を目指す。シリコンネットワークの超伝導体や、新規な機構による高温超伝導体、特異物性材料、超高速光デバイスの開発が期待できる。
研究代表者:横山 正明
所属・役職: 大阪大学工学部 教授
研究課題名: 有機/金属界面の分子レベル極微細構造制御と増幅型光センサー
概   要: 有機顔料において1個のフォトンの入力で約10万個以上の電子が流れる光電流増倍現象の機構を解明し、光電子増倍管に匹敵する高感度薄膜光センサーへの展開、さらには有機EL素子と組み合わせ、赤外光から可視光への変換など、新しい原理に基づく波長変換素子、光増幅素子への展開を目指す。

5. 研究領域「極微細領域の現象(単一分子・原子レベルの反応制御)」
研究代表者:安藤 寿浩
所属・役職: 科学技術庁無機材質研究所先端機能性材料研究センター 主任研究官
研究課題名: ダイヤモンドー有機分子の化学結合形成機構と制御に関する研究
概   要: ダイヤモンドは炭素原子のみでできている結晶であり、その表面は有機化合物と類似の反応性を示すことが予測される。本研究では、ダイヤモンド単結晶表面上に種々の有機化合物を明確な化学結合によって配置するための反応機構を明らかにし、その制御法を確立することを目的とする。また、ダイヤモンド単結晶表面では、化学結合の方向が一定であるため、表面での立体的な反応機構の解明が期待される。本研究ではこのような結合体の大気中での安定性に着目し、機能素子としての応用も探る。
研究代表者:鯉沼 秀臣
所属・役職: 東京工業大学応用セラミックス研究所 教授
研究課題名: 低次元超構造のコンビナトリアル分子層エピタキシー
概   要: セラミックを中心とする新物質構造を、原子レベルで制御し、基板上に組織的かつ効率的に形成する反応システムを開発する。本研究では、これにより高温超伝導応用の基本素子であるジョセフソントンネル接合を完成させるとともに、未知の量子機能が期待されるセラミックス超構造の新しい領域を開拓する。
研究代表者:小林 修
所属・役職: 東京理科大学理学部 助教授
研究課題名: 多種類化合物群の効率的合成を指向した分子レベルでの反応開発
概   要: 本研究は、反応における「効率化」の問題に取り組み、多種類化合物群合成のための新しい方法論の開発を行うものである。また、現代有機合成において水はしばしば反応を妨害するため不必要とされてきたが、本研究はこれとは逆に水を反応の中に積極的に取り入れる立場から有機反応全体を見直し、水を中心とする有機反応媒体の再構築を行う。これにより、有害な有機溶媒を用いないクリーンな環境調和型のシステムの開発が期待される。
研究代表者:齋藤  烈
所属・役職: 京都大学工学研究科 教授
研究課題名: 生体機能分子の設計と精密分子認識に基づく反応制御
概   要: 本研究は、遺伝子DNAのかかわる分子認識を化学のレベルでとらえ、その原理を明らかにし、これに基づいてDNAの機能を制御する生体機能分子を設計合成することを目的とする。具体的には、1)新規なDNA分子認識素子の設計、2)化学的手法によるDNAの"かたち"の制御、3)DNAの部位特異的な反応の設計、4)光による遺伝子の制御、の研究を行う。本研究は、将来のDNA産業の基礎となるさまざまな機能分子システムの開発を目指すもので、ガンや難病治療、遺伝子診断、遺伝子治療などへの応用も期待される。
研究代表者:田中 正人
所属・役職: 工業技術院物質工学工業技術研究所有機合成化学部 部長
研究課題名: ヘテロ原子間結合活性化による新物質・新反応の開拓
概   要: ホウ素、ケイ素、スズ、リン、セレン、テルル等のいわゆるヘテロ原子を含む結合を金属化合物を用いて選択的に切断し、生成中間体の反応挙動や性質を解明し、これらを新規な合成反応や機能材料に展開するための反応設計と機能設計を行う。これにより大きな未開拓分野として残されているヘテロ原子と金属が直接結合した物質の開拓に端緒を与えるとともに、新規な電子・光機能材料や医薬・農薬等の合成に有用な新規物質群を提供する。
研究代表者:中原 義昭
所属・役職: 理化学研究所細胞制御化学研究室 副主任研究員
研究課題名: 大分子糖蛋白質の極微細構造制御:20kDa分子の精密合成をめざして
概   要: 分子サイズ20kDa程度の糖蛋白質分子を有機化学を主とする手段によって純粋に精密合成する方法を確立する。本研究の実施によって、従来困難な対象と思われた糖蛋白質全合成への道を開き、必要な糖鎖ユニットの合成法、および糖蛋白質に組み上げるブロック合成法の妥当性を示すことが可能となる。合成した糖蛋白質性のホルモンや増殖・分化因子さらにその任意の化学修飾体を用いて作用メカニズムを分子レベルで理解する手段を提供する。また細胞活動を制御する分子の創製にもつながる。

6. 研究領域「極限環境状態における現象」
研究代表者:石黒 武彦
所属・役職: 京都大学大学院理学研究科 教授
研究課題名: 低次元金属・超伝導の超異方性強磁場効果
概   要: 2次元あるいは1次元的に超伝導・金属伝導を示す新機能物質の低次元軸方向に強磁場をかけ、物質固有の低次元性と、強磁場が電子の運動・スピンを磁場ベクトル方向に1次元化させる効果を、相乗させること(ぴったり角度効果)により、新しい電子現象・量子現象を発現させる。本研究により新機能物質の電子現象をめぐる新領域が拓かれるのみならず、高温超伝導体の磁場下の特性が解明されその電磁応用の基礎固めがなされる。
研究代表者:遠藤 将一
所属・役職: 大阪大学極限科学研究センター 教授
研究課題名: 超高圧・超強磁場・極低温ー複合極限の生成と物性研究
概   要: 電気を通さない絶縁体でも高い圧力を加えると電気を通す金属となる。さらに、低温にすると抵抗ゼロの超伝導体になる。このように超高圧・極低温・超強磁場という極限条件を組み合わせてうまく使うと、物質の持つさらに興味深い本質に出くわす。本研究は、世界最高の水準を有する装置を開発・製作し、それを用いて物性研究者の夢となっている水素や酸素の金属化などの現象を追求するものである。
研究代表者:蔡 安邦 
所属・役職: 科学技術庁金属材料技術研究所第3研究グループ 主任研究官
研究課題名: 準結晶の創製とその物性
概   要: 準結晶は結晶でもアモルファスでもない究極の秩序構造をもつ新物質であるが、その全貌は未だに明らかになっていない。本研究では新しい準結晶合金の開発を行うと同時に、大きな単準結晶を創製し、構造解析、電子物性、原子振動及び強磁場の研究を行う。本研究の遂行により、準結晶の全貌を解明して、結晶、アモルファスに続く第3の物質群としてその物性の特徴を確立する。また、金属元素のみからなる半導体準結晶の実現が期待される。
研究代表者:佐藤 正俊
所属・役職: 名古屋大学大学院理学研究科 教授
研究課題名: 低次元異常金属の開発
概   要: 本来金属的であるはずの電子系が、ある種の物質内では強いクーロン斥力のために絶縁体的になる。これらの系の電子濃度を制御して金属化すると従来のものとはまったく異なった物性・機能が発現する。本研究ではこのような物質の合成および当該物質の物性研究などにより、その新しい物性と機能を世に送り出すものである。豊かな物質、材料の提供によって「異常金属物性学」という基礎・応用両面にわたる分野が開拓されることが期待できる。
研究代表者:隅山 兼治
所属・役職: 東北大学金属材料研究所 助教授
研究課題名: 合金クラスター集合体の極限構造・磁性制御
概   要: 材料の機能発現の最小単位であるクラスター(約100から10,000個の原子集団)を制御堆積させた新物質の設計・作成技術を確立する。クラスター集合体の構造解析、磁気的・電気的・光学的性質、電子状態を明らかにし、超高密度磁気記録媒体、光・磁気エレクトロニクス材料などの機能材料開発のための知的資産形成を図るとともに医学的な応用の可能性について検討する。
研究代表者:山下 努
所属・役職: 東北大学電気通信研究所 教授
研究課題名: 銅酸化物超伝導体単結晶を用いる超高速集積デバイス
概   要: 本研究はこの積層超伝導体単結晶を用いて、半導体トランジスタやジョセフソン素子では到達できない、高性能電子スイッチ素子を開発することを目指す。この素子は単結晶の積層方向に流れる超伝導電流に磁界を加えて、電圧状態にスイッチさせるものである。本研究ではこの素子の実現のための新しいプロセス技術の開発とそのデバイス物理の解明を進めることにより、現在の高速通信と情報処理に使われている周波数の約100倍以上の周波数で動作する増幅スイッチ、記憶、検波素子の実現と、超伝導マグネット用大電流スイッチの開発をめざす。

7. 研究領域「環境低負荷型の社会システム」
研究代表者:茅根 創
所属・役職: 東京大学大学院理学系研究科 助教授
研究課題名: サンゴ礁によるCO2固定バイオリアクター構築技術の開発
概   要: 光合成/石灰化を通じてすべての生態系の中でもっとも活発に炭素循環に関わっているサンゴ礁において、炭素とこれに関わる窒素・リンなどの栄養塩の循環機構とその収支、サンゴ礁の地形の場の機能とその成立過程、物質循環を規定する光、水温、流れなどの環境条件とその過去と将来における変動を明らかにして、物質循環モデルを構築しその変動過程を解析し、サンゴ礁をCO2固定バイオリアクターとして活用するための実証的研究を行う。
研究代表者:佐和 隆光
所属・役職: 京都大学経済研究所 教授
研究課題名: 地球環境保全のための国際的枠組みのあり方
概   要: 来年12月に京都で開催される第3回気候変動枠組み条約締結国際会議において、2000年以降の二酸化炭素排出費の「法的拘束力」のある削減目標が定められる。わが国が目標を達成するには、何らかの国際協力の枠組み作りが不可欠である。本研究では、既に提案されている国際協力の枠組みの長短と実現可能性を理論的かつ実証的に解明し、効率的かつ公正な国際協力の枠組みを構想し提案する。
研究代表者:野池 達也
所属・役職: 東北大学工学部 教授
研究課題名: 新世代型低負荷環境保全技術による廃棄物のエネルギー化・再資源化
概   要: 都市活動から排出される廃棄物のエネルギー化・再資源化を新しい環境保全技術により飛躍的に向上させることにより、内部環境で物質循環を行う社会経済システムを開発し、外部環境への廃棄物排出の現状を改善することを目的としている。具体的には物質循環が可能である下水汚泥、厨芥、畜糞尿などの有機性廃棄物および廃プラスチックに焦点を絞り、物質循環に不可欠であるエネルギー化・再資源化技術の開発を行う。
研究代表者:盛岡 通 
所属・役職: 大阪大学工学部 教授
研究課題名: 社会実験地での循環複合体のシステム構築と環境調和技術の開発
概   要: 産業製品の循環再資源化を支える4つの部分複合体(住宅、都心地区、工場、農場)の社会実験地での観察、評価と平行して、それらを大学内の仮想的なモデル複合体に写して計測、評価することで(a)製品の完全回収、(b)高装備負荷抑制の住宅化、(c)低負荷基盤の地区全面更新、(d)全食品残滓の家畜飼料化などのゼロエミッションに向けて、部分改善型アプローチの実行可能性と効果について明らかにする。
研究代表者:矢木 修身
所属・役職: 環境庁国立環境研究所地域環境研究グループ 総合研究官
研究課題名: 微生物を活用する汚染土壌修復の基盤研究
概   要: 揮発性有機塩素化合物および重金属等で汚染された土壌を、微生物を用いて修復するための基盤技術を開発する。すなわち、バイオレメディエーション技術の実用化における重要課題である浄化微生物の開発、技術の有効性、さらに、使用微生物の環境中における挙動、生態系に及ぼす影響、有害物質の生成等の安全性に関する評価技術の開発を行い、有効でかつ安全な修復技術を確立する。
研究代表者:吉田 尚弘
所属・役職: 名古屋大学大気水圏科学研究所 助教授
研究課題名: アイソトポマーの計測による環境物質の起源推定
概   要: 分子には同位体の組み合わせにより、無数に異なるアイソトポマー(同位体分子種)が存在する。環境物質の起源に関する、この質的情報を定量的に読みとる新しいコンセプトの物質解析法を提案する。この方法論の創出のために、全く新たな質量分析法と、レーザー分光計測法を開発し、解析法を開発する。環境物質のアイソトポマーを計測・解析し、起源を正確に推定する方法論を確立する。環境変化の将来予測、環境アセスメント、炭素税賦課の科学的根拠を与えることにより、環境低負荷型の社会実現に貢献する。
研究代表者:渡辺 義公
所属・役職: 北海道大学工学部 教授
研究課題名: 質の利用を中心にすえた新しい都市水代謝システムの構築-構造的な渇水と水質汚濁からの脱却-
概   要: 用途に応じた水質の水を必要な量だけ都市に供給し、水文サイクルフラックスの不足量を自然との生態学的調和と水再利用を考えて対応する新しい都市水代謝システムを構想し、その実現に必要な要素技術を開発する。研究では、(1)水処理用新素材(シリカ系吸着剤、超低圧ルーズRO膜)の開発、(2)高効率ハイブリッド水処理システムの構築、(3)リンのリサイクル促進のための機能性酵素の応用技術の開発、(4)高精度計測による水質総合評価システムの開発、(5)再利用水源の創出技術の確立、に重点を置く。

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