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理事長インタビュー

2016年5月「変革への挑戦」

 JSTの将来像を打ち出し、日本の研究開発の活性化をめざす「濵口プラン」がまとまった。理事長の名前を冠したこの改革プランの狙いと、思いを聞いた。

(JST広報課・山下礼士)

—「濵口プラン」をまとめた背景は。

濵口理事長 まず、熊本地震で被災された皆さまに心からお見舞い申し上げます。

 JSTは創設以来、世界が認める成果を挙げてきました。ロイター社が発表した「Top25グローバル・イノベーター:国立研究機関」でも第3位に選出されました。しかし、わが国を取り巻く環境は急速に変化しており、今後、さまざまな課題に直面することが予想されています。その厳しい状況を回避するためには、科学技術イノベーションが必要です。手を打つのは今しかありません。

 JSTは、大学と政府と産業界を結ぶ唯一無二の組織であり、イノベーションに対して重い責任を負っています。環境変化に対応して事業も最適なものとなるように、JSTも賢く進化していかねばなりません。

 「濵口プラン」のゴールはJSTの改革だけが目的ではありません。大学の体力が年々弱っている中、日本の研究者集団が時代の変化に適応し、日本全体のイノベーション・エコシステムが最適なものとなることをめざして取り組んでいきます。

—「濵口プラン」では、世界トップレベルの「ネットワーク型研究所の確立」と、「地域創生への貢献」を掲げています。

 JSTはかねてより「ネットワーク型研究所」を標榜してきましたが、システムとしてまだ完成されていないので、ここを改革します。参考にしたいのは、インターネットやGPS(全地球測位システム)の開発で世の中を変えたDARPA(米国防高等研究計画局)モデルです。DARPAは、失敗のリスクがあっても、大きな成果が期待できるプロジェクトには積極果敢に挑戦してきました。JSTは、研究資金をただ配分するのではなく、大学や研究機関、企業との連携を強化し、主体的な意思を持って研究開発を推進する研究所へと、進化を遂げなくてはなりません。

 挑戦的なプログラムを推進するうえで重要な役割を担うのがプログラムマネージャー(PM)です。PMが、強力なリーダーシップを発揮してチームを編成し、レビューを繰り返しながら最強の体制を構築して、目標の達成に向けて邁進していく。研究開発プログラムのうち、一定割合はこのような挑戦的なものにしていきたいと考えています。こういった活動を支えるイノベーション人材の育成も、JSTの重要な使命です。

 研究所を名乗る以上、研究者にはJSTに帰属してもらうため、大学とのしっかりした契約関係が必要です。これからはJSTの研究へのエフォート率を契約で確保してもらいます。会議や学生指導に追われて時間のない研究者に、その時間だけはJSTの研究に打ち込んでもらいたいのです。

 次に、地域創生への貢献です。国立大学の運営費交付金の配分方式が一部変わり、「地域」「特色」「世界」の3つの枠組みに区分されるようになりました。地域の中核を担う大学に対し、JSTの持つさまざまな人材やネットワークを生かして、その地域の特性に応じた大学支援を提供することが必要です。

 いま日本は、じわじわと地方から衰えてきています。地方での深刻な問題は、若者が急速に減っていることです。大学の活力が衰えると、地域に若者を引き止める力がなくなります。地域産業の活力もなくなり、ますます若者が都会に流出します。この解決の糸口を社会技術研究開発センター(RISTEX)の活動を通じてつかみたいと考えています。

 こういった分析を支えるため、研究開発戦略の立案能力を向上させることも極めて重要です。これからの科学技術戦略を進めるため、しっかりと定量的に分析し、戦略を具体化できるデータを揃えたい。例えばNSF(全米科学財団)ではどんな資金援助で効果を上げたかなどを比較評価し、分析します。

 そのためには、文部科学省科学技術・学術政策研究所など、国内外の機関との連携強化が必要です。また、サイエンスアゴラや日本科学未来館を通じて、国民の声に耳を傾け、社会との共創に取り組んでいくことも重要です。JSTの持つ科学技術に関するインテリジェンス機能を強化し、具体的な根拠に基づく戦略を執ることで、日本の研究開発に活力を持たせたいのです。

— 今後に向けて。

 やれることは山ほどあります。道は長くとも、難問を科学技術で解決し、一歩ずつでも前進の方策を探していきます。