Topics01 新型有機薄膜太陽電池の開発に成功 戦略的創造研究推進事業ERATO「中村活性炭素クラスタープロジェクト」 次世代太陽電池の高効率化に挑む!

瓦がそのまま発電システムを兼ね、家庭内の電気をすべて供給する。
あるいは自動車のスモークガラスが、エンジンを動かす電池になる……
そんな未来図への第一歩を記すのが、新世代の有機太陽電池だ。
 
RNAには生命現象に重要な役割が! RNA干渉を解き明かすことで、新たな医薬品開発への応用や、がん治療法の確立が期待できます。
中村栄一 (なかむら・えいいち) 東京工業大学理学部化学科卒業。同大学大学院博士課程を修了後、コロンビア大学博士研究員、東京工業大学理学部化学科助教授、国立分子化学研究所客員助教授、東京工業大学理学部化学科教授を経て、1995年より東京大学大学院理学系研究科教授。2009年に紫綬褒章を受章。
用語解説 有機薄膜太陽電池
今回作製した有機薄膜太陽電池の模式図2種類の有機半導体(電子供与材料と電子受容材料)を組み合わせて作る次世代太陽電池の1つ。塗布技術が進めば印刷製造が可能なので、シリコン太陽電池に比べて低コスト化が期待できる。また、色をつけたり、曲げたりすることも可能で、なおかつ軽いので広い用途に使用することができる。ただし、エネルギーの変換効率や耐久性の問題で、実用化にはいたっていない。電子供与体=p層、電子受容体=n層、その中間に位置する、電子供与材料と電子受容材料からなるi層の「p-i-n(三層型)構造」では、中村教授が初めて塗布作製に成功した。

エネルギーの変換効率を
世界最高レベルに

 クリーンなエネルギーの創成が急務とされている現在、太陽電池にはあらためて熱い視線が注がれている。ただし、原理そのものは19世紀前半に発見され、以来、1世紀半以上にわたって研究、開発が続けられてきているわりには、まだ決定的なテクノロジーとなっていないのは否めない事実だろう。だが、それはまだ新しいブレイクスルーの生まれる余地が多分にあることを意味してもいる。
 そして、そんなブレイクスルーとなりうる可能性を大いに秘めているのが、中村栄一東京大学大学院教授を中心とする「中村活性炭素クラスタープロジェクト」が開発した新型の有機薄膜太陽電池だ。
 この太陽電池の特徴は、なんといっても有機薄膜太陽電池の欠点とされてきたエネルギーの変換効率を、世界最高レベルの5.4%まで高めたことだろう。これには新開発の電子供与体と電子受容体の両方が大きく寄与しているのだが、そうしたディテールに入る前に、まず有機薄膜太陽電池の特性を、中村教授に語っていただこう。
「現在の太陽電池はシリコン型が主流ですが、純粋なシリコン(ケイ素)を作るのは非常にむずかしい。たいていはシリカ(二酸化ケイ素)になっていますが、ケイ素と酸素は非常に結合が強いので、それを分離するのは原理的に困難なんです。じゃあ、なぜケイ素を使うのかというと、単純に電気の研究者がずっと使ってきたので、最初に技術として注目されてきた。よく知っている物質だから使っているだけで、これがベストだという証拠はどこにもないんです。
 シリコンの太陽電池は、化学の原理的に見て大量生産がむずかしい。それに比べて有機物はコストがかかりません。10分の1ぐらいで済みます。いま、有機薄膜太陽電池は7%の効率があれば市場投入が可能だといわれています。シリコン系よりはるかに低い数字ですが、それでよしとされているのは、もともとの製造にかかわるエネルギー投下量が少ないからで、そこが有機薄膜太陽電池の圧倒的に有利な点なんです」

新開発の電子供与体と
受容体の出合いが
理想的な「剣山構造」を生み出した

 さて、今回の有機薄膜太陽電池の特徴は、先述の通り、新開発の電子供与体と電子受容体だが、この2つの組み合わせは一種のセレンディピティ(幸運な偶然)だった。
「まず同じプロジェクトの佐藤(佳晴)グループリーダーが、三菱化学時代にCP(テトラベンゾポルフィリン前駆体)を熱するとBP(テトラベンゾポルフィリン)に変化するという反応に注目して、実際に三菱化学では有機薄膜トランジスターに応用していたんです。で、これをわれわれが開発したフラーレン(炭素クラスター)化合物と組み合わせると、太陽電池の分野でいい結果が得られるんじゃないかという漠然としたイメージがあって……。というのも、それまではPCBM(フェニルC61酪酸メチルエステル)というフラーレン誘導体が電子受容体に使われていたんですが、これは最初に使った人が偶然うまくいったから、そのまま使われていただけだったんですね。シリコンと同じように。じゃあ、なぜそういうことになったかというと、太陽電池研究の分野は応用物理学者が仕事をしていたからで、化学者はほとんど参画していなかった。だから、そこに化学者が参画して、次々にフラーレンの誘導体を作っていけば、必ずやPCBMよりいいものが見つかるに違いない、というのは100%信じていたんです。
 でも、最初のトライはちっともよくなかった。で、半年ぐらいして松尾(豊)グループリーダーが、こいつはどうかなとSIMEF(フラーレン誘導体)を使ってみたんです。そもそもSIMEFはわれわれが創り出した新しいフラ−レン化合物で、スクリーニングが簡単に何度でもできる化合物として開発されたもので、まったく用途が違っていた。だから、佐藤さんと松尾さんがそれぞれ別の用途で開発した化合物を、有機薄膜太陽電池のために合体させてみたら、これが大当たりだったということなんです。この組み合わせで2%だった効率がいきなり3.5%まで跳ね上がった。倍近い数字ですよ。このときの感激は大きかったですね。物理学者の領分だったところに有機化学者が出てきて、化合物のパラメータをいじると、効率が上下するという予感がたしかめられたわけですから」
 そして、この効率上昇の鍵となったのが、BP結晶とSIMEFのカラム/キャニオン構造(※)だ。剣山状になったBPの隙間をSIMEFが埋めていくこの構造は、電子が流れやすい状態を作り出す。
「これは、じつは世界中の有機薄膜太陽電池研究者が作りたかった構造で、論文などに図として何度も出てきたんです。原理的に理想的な構造として。でも、作った人がいない。あるいは、作れた人はいるのかもしれないけど、証明した人がいないんです。これ(右上写真)はSIMEFをトルエンで洗って、この構造を目で確認できるようにしています。加熱するうちにBPは結晶化するので、柱状の構造が残るんです。こういうことが可能になったのも、オリジナルの化合物を使ったから。化合物が類を見ないから、類を見ない剣山構造が出来たんですよ。
 ただ、全部がきれいに剣山構造になるわけじゃなくて、ダマダマになってしまうところもある。そういうところは効率もぐっと下がります。ですからそのあたりを完全にコントロールすることが、目の前の課題でしょう」

※カラム/キャニオン構造=柱状結晶(カラム)が林立して生け花の剣山のようになり、谷間(キャニオン)を形成する構造。

新反応を機能に結びつける
化学者ならではの発想

 実際の話、ほかにも実用化までに越えなければならないハードルは数多い。たとえば、耐久性の問題。あるいは、広い面積に太陽電池を塗布する方法。「それでも研究に着手した5年前には、はるか遠くに見えたエネルギー問題の解決も、あながち夢物語ではなくなっています。これは物理学者中心だった有機エレクトロニクスの分野に、自分たちで見つけた新反応を機能に結びつけるという、化学者の発想を持ちこめたことが大きいと思います。その意味ではERATOというプログラムは、研究統括がプロジェクトを構成し、組織の枠を超えて研究員を集め指揮することができるので、異分野の研究者をしがらみなく集められましたし、私の場合、化学者の発想を活かして炭素クラスターを次世代エネルギーだけでなく、医療や情報の分野にも展開することができました。5年間という研究期間内に変換効率を2から5にするのはたいへんでしたが、5を超えたので、7はもう見えています」

塗布型p-i-n三層型有機薄膜太陽電池の成膜プロセス
まずテトラベンゾポルフィリン前駆体(CP)の溶液を塗布し(図2)、次にCPを熱してテトラベンゾポルフィリン(BP)に変化させてp層を形成(図3)。その上にSIMEFとCPを混合した溶液を塗布し(図4)、熱転換・結晶化を経てi層を作り(図5)、最後にSIMEFからなるn層を積み重ねる(図6)。i層のBP結晶は、まるで剣山のような構造を形成。
TEXT:奥田祐士/PHOTO:今井 卓