Topics02 地域の特産品を生かして地域活性化のタネをまく 地域イノベーション創出総合支援事業「地域結集型研究開発プログラム」の事例から 大和特産の伝統野菜を全国区に!

2010年、平城遷都1300年を迎える奈良県。
古の歴史に彩られた地で、伝統野菜と科学技術を結びつけて地域の活性化を目指す新しい取り組みが進行している。
確実にかたちになりはじめた成果を紹介する。
奈良県ブランドの創出を目指しています。 副企業化統括
小島義己さん
奈良県商工労働部・農林部次長
Step01 奈良ならではのテーマで県内中小企業による企業化を目指す

奈良県の地域ブランドの
創出を目指して

 奈良県が取り組んでいる「古都奈良の新世紀植物機能活用技術の開発」という事業。これは、奈良県に古来よりある「食」や「薬」に用いられる伝統的な植物と、奈良県の大学・研究機関などが持つ技術シーズを結びつけて、地域ブランドを生み出し、産業化・地域の活性化を図ることを目的とする取り組みだ。
 JSTは、地域の産学官の連携によって新技術・新産業を創出するための研究開発を5年間支援する、地域イノベーション創出総合支援事業「地域結集型研究開発プログラム」を実施している。「古都奈良の〜」は、2005年に採択され、2009年で4年目を迎えた。
 選ばれた伝統的な植物は、「吉野クズ」「大和マナ」「大和トウキ・大和シャクヤク」「大和茶」(下図参照)。これを動物・人での機能性評価やメタボリックプロファイリングなどの科学的手法を用いて分析、新商品の開発を行っていく。
 副企業化統括を務める奈良県商工労働部・農林部次長の小島義己さんは、「今まで、これらの食材の効能やおいしさの成分について、科学的に分析することはありませんでした。この取り組みでは、科学的知見を導入することで、伝統的な植物素材に機能性という付加価値をつけて地域ブランドを作っていきます」と述べる。

中小企業が多い
奈良県ならではの取り組み

 小島さんは、この取り組みについて、その特徴を次のように述べる。
 「奈良県は、他県と比べて大企業が少なく、中小企業が多いのが特徴です。良い技術シーズがあっても、中小企業がそれを自分で研究開発して産業化することは難しいので、支援の仕組みが必要です」
 そのため、奈良県はこの取り組みの大きな特徴となる、研究成果を活かして企業化を支援する「企業化プロジェクト」を立ち上げた。これは、奈良県と、(財)奈良県中小企業支援センターという機関が一体となって企業化を強力に支援するものだ。他県にはあまり見られない、中小企業に特化した奈良県独特のプロジェクトといえる。
 「企業化プロジェクト」が強力にバックアップすることで、中小企業が大きなリスクを負うことなく、県内の技術シーズを利用して産業化に参加できるのだ。

これまでの成果と
今後の取り組みへ

 「古都奈良の〜」の成果の代表的な1つが、今回紹介する伝統野菜「大和マナ」の優良品種作出の成功だ。そのほかの植物についても、吉野クズの骨粗しょう症予防機能や、大和茶の品質向上など、さまざまな成果を上げつつある。
 地域結集型研究開発プログラムの支援期間は2010年で終わるが、その後も見据えて、これまでに積み重ねてきた成果を生かして、継続的に新たな開発ニーズに応える仕組みを作り出すことが大切だと、小島さんは語る。古都・奈良の新たな取り組みは、まだまだ続く。

プロジェクトの概要

Step02 合理的かつ効率的に「大和マナ」の優良品種を作る
F1品種を普及させ加工食品にも使ってもらいたいですね。 総括研究員
浅尾浩史さん
奈良県農業総合センター統括研究員

『古事記』にも遡る
伝統野菜「大和マナ」

 「大和マナ」は奈良県の伝統野菜の1つで、アブラナ科の漬け菜の一種。外見は同じアブラナ科の小松菜に似ているが、小さい葉の切れ込みが大きく、ほかの漬け菜類にはない甘みと独特のうまみが特徴だという。しかし、伝統野菜である大和マナには、商品として広く流通させるには問題点があった。
 大和マナの育種の共同研究について、コーディネーターを務めている奈良県農業総合センターの浅尾浩史さんは、その問題点を3つ挙げる。「1つ目は個体のばらつきが大きいこと、2つ目は葉がすぐに黄色くなって日持ちがしないこと、3つ目は機能性について、抗炎症の機能性成分が個体によってまちまちであることです」

合理的で効率的な
優良品種の育種

 大和マナの優良品種を作るために着目したのは、アブラナ科の植物の持つ、自家受粉を防ぐ遺伝的性質(自家不和合性)だ。そのカギとなるのが奈良先端科学技術大学院大学で研究されていた自家不和合性遺伝子(S遺伝子)である。これは、植物が受粉するかしないかを決める遺伝子で、雄しべ(花粉)と雌しべのS遺伝子が不一致の場合は受粉し、一致した場合は受粉しない。
 「従来は、主に経験に頼った育種が行われていました。しかし、このS遺伝子の情報を知ることで、効率よく育種をすることができるのです」
 まずは、大和マナの優良品種となる親系統を、S遺伝子の情報をもとに作り出すことが行われた。次に、親となる系統を組み合わせて、交雑し、選別することで、個体ごとにばらつきがなく、日持ちがして、しかも、抗炎症成分の含有量にもばらつきのない優良品種の大和マナF1(雑種第一世代)品種を作り出すことに成功した。

各関係機関の間を
コーディネイトする

 今回の大和マナF1品種の開発には、複数の機関がかかわっている。奈良先端科学技術大学院大学はS遺伝子の情報提供と技術指導を行い、奈良県農業総合センターはS遺伝子型の同定技術の開発が行われた。こうして生まれた育種技術を用いて、ナント種苗が実際の育種を行った。
 「特にスケジュールに関しては、きっちりやりました。複数の機関がかかわるプロジェクトの場合、どこかが少しでも遅れたら、すべてのスケジュールが一気にずれてしまいますからね」と浅尾さん。
 大和マナF1品種開発の成果は、各機関の地域活性化に向けた努力と、連携をコーディネートした浅尾さんの頑張りの結晶なのだ。
 「今回は、F1品種が出来たことが大きな成果です。次回はこのF1品種をもとに、さらに良いものが出来ると思います。これからは企業化プロジェクトにより、F1品種を県内外に普及させ、さらに加工食品にも使ってもらえるような企業化支援を進めていきたいですね」
 今回まかれたタネが、地域を活性する芽として、さらに大きく育っていくことを期待したい。

大和マナF1品種の育種 写真提供/ナント種苗
あらかじめ、S遺伝子がわかっていれば、自家不和合性が起こらないような親の系統を作って、組み合わせ交配ができる。こうして効率的にF1品種を生み出すことが可能になった。
TEXT:大宮耕一/PHOTO:大沼寛行