Topics01JST超伝導研究特別プロジェクトTRiPの研究チームから 戦略的創造研究 推進事業「新規材料による高温超伝導基盤技術」研究領域 研究課題「FeSe   系超伝導体の機構解明と新物質探索」 超伝導研究は楽しい!

2008年2月の鉄系超伝導物質の発見で、再び活性化した超伝導研究。世界中の研究者が参入し、開発競争は激しさを増している。多くの研究者を惹きつける超伝導の魅力について語ってもらった。
サイエンスはサスペンス!!
高野義彦(たかの・よしひこ)水口佳一(みずぐち・よしかず)

高野義彦(たかの・よしひこ)
1995年横浜市立大学大学院総合理学研究科博士課程修了。1999年物質・材料研究機構に入所。2006年より現職。これまで、層状ニオブ酸化物、ダイヤモンド薄膜を材料に超伝導を実現。鉄系超伝導物質の発見を機に、鉄系の研究に携わるとともに、新たな超伝導物質の探索にも取り組んでいる。

水口佳一(みずぐち・よしかず)
物質・材料研究機構
ジュニア研究員
(筑波大学D2)


実用化への期待は高まるものの
行き詰まっていた超伝導研究

 超伝導は極低温にすると電気抵抗がゼロになる現象であり、エネルギーロスのない送電ケーブルなどの実現化が期待されている。他にも、現在、計画が進められているリニアモーターカーへの実装や、身近なところでは、病気の検査に使われるMRI(核磁気共鳴画像法)装置にも超伝導が活用されている。
 しかし、超伝導状態になるためには低温に冷やした環境が必要なため、超伝導状態になる温度(超伝導転移温度、以下Tcと略す)をいかにして上げるかが、超伝導の広い実用化ヘの鍵を握ることになる。
 1911年に水銀で超伝導が起こることが発見されて以来、さまざまな超伝導物質が開発され、徐々にTcは上げられてきたが、1986年の銅酸化物系超伝導物質の発見によって、実用化への期待は大きく膨らむことになった。
 それまでの金属系の超伝導物質のTcは約40K(−233℃、K=ケルビン)にまで高めるのが精一杯だったが、銅酸化物系物質のTcは急速に高められ、ゆくゆくは室温でも超伝導になる物質が発見されるのではないかと期待されるほどだった。しかし、この期待も長続きはしなかった。安価な液体窒素(77K、−196℃)でも超伝導となるTcを達成したものの、近年は記録更新されることはなく、新しい超伝導物質の探索は行き詰まっているかにみえた。

超伝導転移温度の推移

鉄系超伝導の発見で再び活性化
多くの研究者が鉄系の研究に参入

高野チームの3つの研究室 1合成 2加工 3計測

高野チームの研究室は「合成」「加工」「計測」の3つの要素で構成されている。「合成」の部屋ではさまざまな物質を混ぜて超伝導を起こす候補物質を作る。それが超伝導を起こすかどうかは「計測」の部屋で確認。「加工」の部屋では超伝導物質を材料に電子デバイスの製作が行われる。超伝導物質の探索から、実用化に近づける研究までを一貫して行っている。

最近の研究成果 鉄系超伝導線材の簡便な作製方法を開発
鉄シースにSe、Te合金を詰めて圧縮した線材

鉄の鞘(シース材)にセレン(Se)、テルル(Te)を入れて加熱することにより、鉄とセレン、テルルが反応し、鞘の内部が超伝導物質になる。圧延することで容易に線材化できるのもこの製作法の利点の1つだ。

 ところが、そうした停滞感漂う超伝導研究を一気に活性化する新物質が発表された。2008年2月に東京工業大学・細野秀雄教授らの研究グループによる鉄系の超伝導物質が、それである。この発見によって、銅酸化物系を上まわるTcの向上を目指して、多くの研究者が鉄系超伝導の研究に参入し、超伝導研究は再び活況を呈するようになった。
 JSTもこうした動きに呼応して、異例の早さで特別プロジェクト「新規材料による高温超伝導基盤技術(TRiP)」を立ち上げた。今回、紹介する物質・材料研究機構(NIMS)ナノフロンティア材料グループの高野義彦グループリーダーも、TRiPにおいて鉄系超伝導物質の研究を進めている。高野グループリーダーがこう説明する。
 「超伝導研究が面白いのは、誰でもすごい発見ができる可能性を秘めていることです。物質の組み合わせ方や混合比率次第でTcを上げられるので、経験豊富なベテラン研究者でなくても成果を上げられるかもしれません。大学院生だって大発見する可能性があるんです」
 特に、発見されて間もない鉄系超伝導物質となると、試されていない物質の組み合わせは数多く残されており、Tcを大幅に高めることも期待できるため、世界中の研究者が鉄系超伝導研究に取り組むようになったのだ。
 ところで、鉄系超伝導の発見以前に他の研究者が感じていた行き詰まりを、高野グループリーダー自身は感じていなかったという。
 「たしかにTcを上げるという意味では超伝導研究は停滞していたといえます。でも、銅酸化物系以外の未知の超伝導物質を探索する研究は続けられており、私自身、新高温超伝導を探索しながら、層状ニオブ酸化物やダイヤモンド薄膜など、そもそもが絶縁体の材料に、新たに超伝導を見出すことができました。新高温超伝導の出現はずっと期待していましたので、この鉄系超伝導体の発見は、たんに銅酸化物に次ぐ第2の高温超伝導であるにとどまらず、第3第4の新高温超伝導体がどこかに隠れていることを暗示していると思うんです」

鉄系の発見は若き研究者も触発し
実用化に近づける研究を進める

 鉄系超伝導物質の発見は多くの研究者を触発したわけだが、高野グループリーダーにはさらに鉄系の研究を後押ししてくれる存在がいた。現在、高野グループリーダーの下で学んでいる筑波大学大学院博士課程2年生で、NIMSジュニア研究員の水口佳一さんだ。
 水口さんは、博士課程からNIMSでダイヤモンドの超伝導を研究する予定だった。しかし、2008年春に鉄系超伝導物質が発見されたことで、急きょ、研究テーマを変更。鉄系を研究することになったという。
 「鉄系超伝導という新しい成果が報告されたのですから、『これは鉄系をやるしかない』と思いました」と水口さんは語る。
 水口さんは、博士課程が始まる直前だったにもかかわらず鉄系超伝導の研究に進みたいと熱心に訴えた。その熱意に応えて、高野グループリーダーは鉄セレン(FeSe)系の超伝導物質の研究を始めることを決意。2人の鉄系超伝導の研究が開始されることになった。高野グループリーダーがこう続ける。
 「私が大学院生だった80年代後半に銅酸化物の超伝導が発見されたことで、当時、進路に迷っていた私は超伝導の研究に進むことができました。それが水口君にとっては鉄系超伝導物質の発見だったのですね。ですから、彼が鉄系超伝導の研究をしたいと言い出した時は、若い頃の自分を見ているようでした」
 そして、2人は鉄系超伝導物質を簡便に線材に加工する方法を開発した。
 鉄の鞘(シース材)にセレン、テルルを入れ、加熱することにより、内部で鉄とセレン、テルルを反応させ、超伝導物質を作ることに成功。この加工方法は、圧延により超伝導物質を線材にできるので、鉄系超伝導を実用化に近づける具体的な成果といえるだろう。
 このように鉄系超伝導の基礎研究と並行して、鉄系超伝導の実用化技術や、鉄系以外の新たな超伝導物質の探索も進めている高野グループリーダーが、最後に超伝導研究についてこう語ってくれた。
 「サイエンスってサスペンスに似ていると思うんです。事件現場からさまざまな証拠を集めて、時には探偵の勘がはたらいて犯人を見つける。私たちも、わからない現象に対し、さまざまな実験を行い、実験結果や、時には科学者の勘を使って原理を突き詰める。鉄系超伝導もその発現メカニズムはわかっていません。さまざまな実験を行い、たくさんの証拠を集めて、高温超伝導発現の原理をぜひとも見出したい。一つひとつの実験により、一歩一歩真実に近づいているように思えてワクワクします。だから、わからないことがいっぱいの超伝導研究は面白いんです」
 研究を「面白い」と言いきれるからこそ、高野グループリーダーは停滞感を感じずに研究を進められたのだろう。高野チームの研究室から、革新的な超伝導研究が生まれることを期待したい。

TEXT:斉藤勝司/PHOTO:大沼寛行