科学技術振興機構(JST)の最近のニュースから……

(News03 研究成果)光子を用いた世界最大規模の光量子回路を開発!量子コンピュータや超長距離の量子暗号の実現に一歩。

 光の粒である光子は量子情報処理における有力な伝達媒体といわれています。その光子のある特定の「量子もつれ合い状態」だけを抜き出す光量子回路の開発に、北海道大学電子科学研究所の竹内繁樹教授らの研究グループが成功しました。戦略的創造研究推進事業CREST「量子情報処理システムの実現を目指した新技術の創出」の研究課題「光子を用いた量子演算処理新機能の開拓」の研究成果です。
 光子を用いた情報処理では、光子の偏光状態を測定したり、特定な偏光状態の光子を生成したりすることが重要です。竹内教授らは、2002年に、2つの光子が「両方とも垂直または水平」の偏光を持つ場合には透過し、「一方が水平で他方が垂直」の偏光を持つ場合には吸収する「量子もつれフィルター」を含む光量子回路を、理論的に提案していました。このフィルターを使えば、「両方とも垂直」または「両方とも水平」という2つの偏光が、同時に成立しているという特定の「量子もつれ合い状態」だけを抜き出せます(図B)。
 量子もつれフィルターを含む光量子回路は複雑で、高い精度が求められるため、なかなか実現できませんでした。しかし、竹内教授らは今回、入射した光を分解するビームスプリッターなどの新技術の導入によりこの課題をクリアしたのです。
 開発された光量子回路は、基本素子であるゲートの数が4であること(従来は2)などからみて、世界最大級といえます。また、量子もつれ合い状態を利用して絶対安全な量子暗号の伝達距離を大幅に延長させる研究や、量子もつれ合い状態にある粒子群を操作した量子コンピュータの研究も行われており、今回の、特定の量子もつれ状態を抜き出せる光量子回路の実現により、これらの研究が大きく進むものと期待されています。

量子もつれフィルターの動作

A:偏光フィルター
B:2つの光子に対する「量子もつれフィルター」
C:「量子もつれフィルター」に斜め45度偏光の光子2つを入力すると、もつれ合った2つの光子が出力される


(News04 研究成果)新しい生体用二次イオン質量分析法(SIMS)を開発、分子量が10,000を超えるたんぱく質の計測に成功!

開発したSIMS装置とその分析法
今回開発された分析法では、照射する一次イオンの構成原子数が大きいため、試料となる生体高分子が二次イオンとなって放出される際、分子の解離を防げます。

 化学工業などにおける有機材料の表面分析のニーズは、最近ますます高まっています。その表面分析における課題を解決する、新しい生体用二次イオン質量分析法(SIMS)の開発に、兵庫県立大学大学院工学研究科の持地広造教授らのグープが成功しました。先端計測分析技術・機器開発事業/要素技術プログラムの開発課題「ガスクラスターSIMS基本技術の開発」の研究成果です。
 SIMSとは、試料となる固体に一次イオンを照射し、固体の表面から放出する二次イオンを計測する質量分析法です。現在、一次イオンとして使用されているのは、金属原子が複数集まってできた金属クラスターイオンですが、これらは構成原子数が10程度のため、たんぱく質のような生体高分子を試料とした場合、分子が解離してしまい、計測ができません。そこで、生体試料の分析には、一次イオンの衝撃をやわらげるための補助剤を試料に混ぜて計測が行われています。
 持地教授らは、数気圧以上のアルゴンガスを極細のノズルから断熱膨張させると、冷却効果によって構成原子数が数百から数千に及ぶ巨大なアルゴンクラスターイオンが生成されることに注目。その構成原子数と加速電圧を制御して照射し、試料とする生体分子の解離を抑える方法を開発しました。実際に、分子量が10,000以上の場合も、補助剤を混ぜずに分子イオンを正確に計測することに成功しています。
 最近、DNAチップやバイオセンサーなど、生体高分子を利用したバイオデバイスの開発が盛んになっています。今回の研究成果によって、ライフサイエンスやバイオテクノロジー分野におけるSIMSの新しい可能性が開けてくるでしょう。