JST News Vol.5/No.12
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科学技術振興機構の最近のニュースから……
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ERATO「五十嵐デザインインタフェースプロジェクト」の狙い
科学の最先端の研究成果は、一般人にはなかなか使いこなせない。
そんな思い込みを打ち破る「五十嵐デザインインタフェースプロジェクト」の試みを、
五十嵐健夫・研究総括の足跡からたどってみた。
Topics 01
超微小がんの診断や外科手術時に威力を発揮する蛍光プローブ
Topics02
「未来の科学者養成講座」の採択事例から
佐竹健治 東京大学地震研究所地震予知情報センター教授
サイエンス チャンネル ベスト・セレクション

心ならずも物理学の革命家に

マックス・プランク [1918年ノーベル物理学賞]

 その世界ではだれ一人知らぬ者のない有名人だが、それ以外では案外知られていない――そんな人物がいるものである。例えば、失礼ながら、百人一首の競技かるたで前人未踏の11連覇を達成中の名人の名を、あるいは、イタリアの強豪サッカーチーム「インテル」の監督の名を、あなたはご存知だろうか(答えは西郷直樹名人、ジョゼ・モウリーニョ監督)。もっとも、学問・科学の世界では、だれもが知っているアインシュタインのような人物のほうがむしろ例外で、“知られざる巨人”のほうがずっと多い。ドイツの物理学者、マックス・プランク(Max Planck:1858〜1947)もまた、そうした巨人の一人である。
 20世紀、物理学の世界に二つの“革命”が起きた。一つは時空の概念を変えたアインシュタインの相対性理論の登場、もう一つは極微の世界の現象を記述する量子力学の確立で、これらにより物理学は古典物理学から現代物理学へと転換をとげた。その量子力学が確立されるのは1920年代になってだが、まさに20世紀を目前にした1900年に、量子(quantum)という最小の物理的単位を導入して量子論を創始したのは、他ならぬプランクなのである。
 物体は熱せられると温度の上昇に伴って赤色―黄色―青白色の光を発するようになる。ところが古典物理学では、このよく知られた現象を理論的・数学的に記述することができなかった。そこでプランクは、「光(電磁波)はある基本量の倍数のエネルギーだけをもつ」言い換えれば「光のエネルギーは振動数に比例定数hをかけたものの倍数になる」と考えた。結果として、電磁波の運ぶエネルギーは非連続的な「とびとび」の値をとる。これは、光を連続的な波ととらえる古典物理学からはでてこない考えだが、熱放射の現象をうまく説明することができた。ここに量子力学という新しい物理学の枠組みが浮上したのである。
 現在も、量子力学においては、前述の定数hは最も頻繁に使われる普遍的な定数であり、「プランク定数」と呼ばれている。ちなみにその現在の精密値は次の通り。
  h=6.62606896×10-34J・s
 気の遠くなるような小さな値だが、これなくしては量子力学を駆使した半導体やナノテクノロジーなど現代の技術は語り得ないほど重要な定数である。もっとも、いま量子論の祖と称えられるプランク自身は、自らが物理学の革命を起こしたという事実が気に入らなかった。古典的な熱力学の大家である彼は、心ならずも彼自身が依拠する物理学の枠を越えてしまったことを悔やみ、量子論は間違いであってほしいと思っていたのである。
(文・西田節夫)