Topics02 絶縁体を電界効果で超伝導にすることに世界で初めて成功 新超伝導体の探索。

科学と社会が密接な関係を持つ現代、科学者の社会リテラシーの重要性が指摘されている。JSTの社会技術研究開発センター(RISTEX)では、科学者の社会リテラシーに関する研究開発や実践が行われている。

領域の意図(メッセージ)

科学と社会が協働するために必要な科学者の社会リテラシー。

RISTEXが開催する初のサイエンスカフェは、昨年8月、神戸で開かれた。
RISTEXが開催する初のサイエンスカフェは、昨年8月、神戸で開かれた。

 RISTEXでは、「科学技術と人間」研究開発領域のなかに、平成19年度から「科学技術と社会の相互作用」という研究開発プログラムを立ち上げており、現在8つの研究開発プロジェクトが採択されている。
 「科学技術と人間」領域総括補佐の小林傳司・大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授は、この研究開発プログラムの目的を次のように語る。
 「現在のように社会のなかに科学が入り込んでいるという経験は、人類史のなかで初めてのことです。科学との付き合い方についてまだそれほど習熟していない私たちですが、もはや、科学技術を使いこなすことなしに暮らしていくことはできません。いままでは、専門家と呼ばれる人たちが、自分たちが良かれと思う方向で科学を発展させてきました。しかし、科学によって利益を受ける、場合によっては不利益を被るのは、一般の人々です。これからの科学技術の発展は、一般の人々、社会との協働が必要です。そのためのシステムを作ることがこの研究開発プログラムの大きな目的の一つとなります」
 また、こうした社会との協働のために、科学者には一般の人にわかる言葉でコミュニケーションし、一般の人が科学に何を求めているのかを理解するという社会への感受性、つまり「社会リテラシー」が必要になるという。そして、科学者にとっての「社会リテラシー」とはどのようなものであるのかを明らかにし、それをどのようにして科学者が身に付けていくか、という提言を行うことも、この研究開発プログラムでの大きな目的の一つだ。


領域自身の社会リテラシーとサイエンスカフェの実施。

領域総括補佐 小林傳司 こばやし・ただし
大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授

 小林総括補佐は、社会リテラシーは個々の科学者だけではなく、もっと広い意味でも必要だと考えている。
 「私たちの研究開発領域「科学技術と人間」が、社会の人々と協働するシステムを作り出すということを目指している以上、この領域自体が社会リテラシーを持つ必要があると考えています」
 領域が社会リテラシーを持つための手段の一つとして、小林総括補佐はサイエンスカフェを実施して、領域で採択された科学者自身が市民と対話するということに取り組んでいる。
 「サイエンスカフェは、社会にとって科学がどのようなものであるかをみんなで考えるという運動です。その意味で、私たちの領域は、サイエンスカフェの目的と非常にフィットしています。そこで、サイエンスカフェの枠組みで、私たちの研究を発信していこうと考えました」
 領域そのものが社会リテラシーを持つために、サイエンスカフェという場で、「みなさんと一緒に科学技術の研究の仕方を考える」という領域のメッセージを発信する。それと同時に、科学に関する疑問や問題を、一般の人々が提示・提案するきっかけを作ることを目指している。


科学者の自覚

研究内容を社会に向けて発信することの重要性。

平川秀幸さん 五十嵐太郎さん
仙台で開催されたサイエンスカフェ。高校生から社会人まで幅広い参加者を集めた。
仙台で開催されたサイエンスカフェ。高校生から社会人まで幅広い参加者を集めた。

 2008年12月5日(金)、仙台で領域が開催する2回目のサイエンスカフェが、東北大学との共催で行われた。
 RISTEXの「科学技術と人間」の研究開発領域からは、研究開発プロジェクト「市民と専門家の熟議と協働のための手法とインフタフェイス組織の開発」の研究代表者である平川秀幸・大阪大学コミュニケーションデザイン・センター准教授が講演者として参加し、東北大学大学院工学研究科の五十嵐太郎准教授と対談を行った。
 平川准教授は、サイエンスショップを研究、実践している。サイエンスショップとは、市民の科学的疑問に対して、専門家が一緒に解決するという、法律相談所の科学版といえるもの。まさに社会リテラシーに関する研究だ。
 平川准教授は、研究を社会に向けて発信することの大切さを、遺伝子組み換え作物を例に次のように述べる。
 「遺伝子組み換え作物は、説明もなく、ある日突然人々の身のまわりに出てきてしまいました。そのために是非を問う以前にネガティブな感情が生まれてしまったといえます。たとえ社会に役立つ技術でも、一般の人々が一度ネガティブな感情を持ってしまうと普及は難しい。しかし、それは科学者にとっても社会にとっても大きな損失です」
 得体の知れないものに対する社会の拒否反応は非常に大きい。科学者は研究内容を社会にとって「得体の知れないもの」にしないよう、わかりやすく社会に向けて発信する必要があるのだ。


自分の研究の社会のなかでの意味を理解することが必要。

 わかりやすく社会に発信する際に必要となるのが、科学者の社会リテラシーだ。平川准教授は社会リテラシーについて、「重要なのは、科学者が、自分の研究が置かれている独特のコンテクストに気づくと同時に、社会のほかの人にも、それぞれのコンテクストがあるのだと気づくことだ」と語る。
 平川准教授の言うコンテクストとは、研究や研究者の考え方の前提となる論理や価値観のことだ。自分の研究の、社会のなかでの意味を理解し、それに対してほかの人々がどのように考え、感じるのかを想像し、理解することが科学者として必要になるというのだ。
 もっとも平川准教授は、必ずしもすべての科学者に等しく社会リテラシーが必要であるとは考えていないという。
 「ある分野のグループのなかで、研究と社会をつなぐインターフェイスとなるスポークスパーソンがいればよいと思っています。グループ内にそういう機能があることが大切なのです」

TEXT:大宮耕一/PHOTO:大沼寛行