JST News Vol.5/No.10
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科学技術振興機構の最近のニュースから……
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生物学・化学の2つの国際大会を日本で開催!
科学や数学に秀でた子どもたちを見出し、才能を伸ばすことを目的に開かれている科学オリンピック。
生物学と化学の2つの国際大会が日本で開催されるのを機に、その意義について考えてみよう。
Topics 01
小児固形腫瘍「神経芽腫」の原因遺伝子変異を発見
Topics02
研究開発領域「科学技術と人間」が取り組む「科学者の社会リテラシー」とは?
中垣 俊之 北海道大学電子科学研究所准教授
サイエンス チャンネル ベスト・セレクション
elements メンデレーエフの奇妙な棚

物理もできる音楽家?

リチャード・ファインマン [1965年ノーベル物理学賞]

 どういうわけか科学者、それも物理学者には音楽愛好者が多い。数値や数式ばかりを眺めていると、情緒的なものに惹かれるということなのだろうか。ノーベル物理学賞受賞者に限っても、例えばM.プランク(1919年受賞)は毎日30分のピアノの練習を欠かさず一生続けたし、W.ハイゼンベルク(1932年受賞)はベートーヴェンのソナタやシューマンの協奏曲を見事に弾いた掛け値なしのピアノの名手だった。またA.アインシュタイン(1921年受賞)は、名手かどうかはともかく、ヴァイオリンを人に聞かせるのが好きで、来日時(1922年)のパーティーの席上でもグノーの「アヴェ・マリア」などを演奏している。
 ところがここに、おもちゃのフライパンを棒でタラッタラ、カチカチと叩いてはノリノリでサンバをやり、ボンゴ(膝にはさむ太鼓)をパンポン、パンパラパンと打ちまくっては恍惚としてアフリカ音楽にひたるという、一風変わった音楽好きのアメリカ人物理学者がいる。リチャード・ファインマン(Richard P.Feynman:1918〜88)である。
 じつはファインマンは楽譜が読めない。ニューヨーク近郊の寒村で豊かとはいえないユダヤ系移民の子として育った彼は、クラシック音楽には無縁である。そのかわり、12歳にして電気コンロ・棚完備の「実験室」を持ち、「考えるだけでラジオを直す」伝説をつくった科学少年だった。というより、彼は生まれついての好奇心のかたまりであり、ラジオであれ民族音楽であれ、面白そうだと思ったらとことん追求してやまない人間なのである。実際彼は、体当たりの猛特訓だけでフライパン(フリジデイラという立派な楽器である)にもボンゴにも習熟してしまった。それどころか、30歳代のリオ大学客員教授時代には、本場ブラジル・リオのカーニバルでブラジル人奏者にまじってフライパンを叩きながらサンバ・パレードに加わったし、50歳代のカリフォルニア工科大学教授時代には、ロスのナイトクラブでナイジェリア人のプロとともに堂々とボンゴを叩いていたのである。
 とはいえ、彼が最も身を入れて“追求”したのは女性かもしれない。彼には有名な自伝『ご冗談でしょう、ファインマンさん』*がある。世に自伝は多いが、これほど女性について奔放にあけすけに語った自伝はそうはないだろう。
 最後になって恐縮だが、彼はもちろん天才物理学者でもあった。「量子電磁力学への貢献」でシュウィンガー、朝永振一郎とともにノーベル物理学賞を受賞したのは1965年、ボンゴの話はそのあとである。
*『ご冗談でしょう、ファインマンさん 上・下』 R.P.ファインマン(大貫昌子訳)岩波現代文庫 2000
(文・西田節夫)