Topics02 絶縁体を電界効果で超伝導にすることに世界で初めて成功 新超伝導体の探索。

低温度下で電気抵抗がなくなり、永久に電気が流れ続ける超伝導。20年ほど前の高温超伝導のブームが終わって以来、超伝導の研究には手詰まり感があったが、ここにきて新たな成果が次々と生まれはじめている。
川崎雅司(かわさき・まさし)
川崎雅司(かわさき・まさし)

1984年東京大学工学部合成化学科卒業。89年東京大学大学院工学系研究科化学エネルギー工学専攻博士課程修了(工学博士)。現在、東北大学原子分子材料科学高等研究所機構、金属材料研究所・超構造薄膜化学研究部門教授。
−分野融合がもたらしたブレークスルー!−

第3の手法による超伝導物質の発見。

超伝導臨界温度の変遷

 東北大学原子分子材料科学高等研究機構の川崎雅司教授のグループは、電気がまったく流れない絶縁体にプラスチックを組み合わせて電圧をかけることで、超伝導状態を作り出すことに成功した。絶縁体を電界効果によって超伝導状態にしたのは、世界で初めての事例だ。
 この成果は、川崎教授が研究代表者を務めるJSTの戦略的創造研究推進事業チーム型研究CRESTの研究領域「ナノ界面技術の基盤構築」のなかの研究課題「酸化物・有機分子の界面化学とデバイス学理の構築」によって得られたものだ。
 川崎教授によれば、超伝導物質発見の歴史を見ていくと、そこには3つの手法があるという(左図参照)。
 第1は、電気の流れる金属同士を混ぜて超伝導物質にする手法。1910年代の超伝導研究の黎明期から1970年代頃まで主流だった手法だ。しかし、広く実用化できるような温度にはいまだ達しなかった。
 第2は、銅などの酸化物に混ぜものをして超伝導物質にする手法。1980年代にはいろいろな組み合わせで実験が行われ、高温超伝導ブームを巻き起こした。この手法ではさまざまな試みが、今も続けられている。
 第3の手法は、電気の流れない物質に電圧をかけると電気が流れるようになるという、電界効果を利用するもの。これが、川崎教授らが用いた手法だ。
 今回の成果について川崎教授はこう語る。
 「まったくの絶縁体が超電導状態になるということは、超伝導物質の材料の候補が無限に広がるということです。これは非常に大きな進歩です」


50年もの間、成功しなかったものが今、成功した理由。

川崎教授の酸化物技術と岩佐教授の有機分子研究を融合!
■ 超伝導トランジスタの構造

半導体
(チタン酸ストロンチウム)に配線
ゲート電極(白金線)をセット
  そこに↓
ポリマー電解質
(過塩素酸カリウムのポリエチレンオキシド溶液)を流し込む
●模式図

絶縁体と電解質に電極をつけトランジスタ構造とする。そこに電圧をかけると、絶縁体と電解質の間に陰イオンと電子が張り付いた、ごく薄い層ができる。これを冷却していくと、ある温度で超伝導状態となる。

 第3の手法による試み自体は、すでに50年前から行われていたが、これまでに成功したという事例は存在しなかった。2000年から2001年にかけて、この手法が成功したという論文が、アメリカのベル研究所の研究員から出され大きな話題となったが、のちに捏造であったことが発覚したのは記憶に新しいところだ。
 川崎教授らは、どうやって成功に導くことができたのだろうか。
 「今までの方法は、ベル研究所の例も含め、絶縁体の上により強い絶縁体を貼り付けて、そこに金属を置くというコンデンサ構造でした。僕らの方法では、より強い絶縁体の代わりに、有機物の絶縁体を使いました」
 超伝導状態にするためには、超伝導物質にたくさんの電子を溜める必要がある。そのために、高い電圧をかける必要があるのだが、絶縁体はある決まった以上の電圧をかけると放電してしまう。これを絶縁破壊という。絶縁体に、より強い絶縁体を貼り付ける従来の方法では、超伝導になる前に絶縁破壊が起きてしまう。そのために今までに成功事例がなかったのだ。
 そこで発想を転換した。それが有機物の絶縁体の使用だ。この有機物の絶縁体として用いたのがポリマー電解質(ポリエチレンオキシドに無機電解質を分散させたもの)、つまりプラスチックだ。この方法だと、乾電池程度の低い電圧で大量の電子を溜めることができ、絶縁破壊が起きにくい。
 川崎教授らの行った方法は、絶縁体としてチタン酸ストロンチウムを用い、それに電極を付ける。そこにプラスチックの層を付けて回路を作製。これに電圧をかけて冷却したところ、摂氏マイナス272.85度で超伝導状態となった(右図参照)。
 川崎教授は、「今回は、非常に低い温度ですが、とりあえず第3の手法で成功することができました。今後どこまで温度が上がっていくか乞うご期待、というところです」と笑みを浮かべた。


酸化物エレクトロニクスと
有機エレクトロニクスの分野融合。

 じつは、今回の成功のポイントの一つである有機物の絶縁体のアイデアは、共同研究者である、東北大学金属材料研究所の岩佐義宏教授のものだ。
 川崎教授と同時期に東北大学の金属材料研究所に招聘された岩佐教授は、有機エレクトロニクスの専門家だ。酸化物エレクトロニクスの専門家である川崎教授とは年齢も近く、分野は違うが同じような課題に取り組むライバルといえる存在だ。
 今回の研究では、川崎教授は絶縁体(上の模式図の下側の部分)を担当し、岩佐教授がポリマー電解質(模式図の中央の部分)を担当した。今回の成果は、異なった分野の二人が、同じ研究課題に取り組むことで生まれたものだったのだ。川崎教授によれば、お互いの成果の「いいところ取りをした」とのこと。
 「イノベーションというのは、異分野の人が同じ研究テーマに対して、力を合わせることで生まれるものなんだと思います」
 川崎教授は、積極的に分野融合で研究をしたいと考えていた。それで、CRESTで「違った性質を持つ材料の界面…」という研究課題が立てられた時に、自身の研究領域である酸化物に組み合わせる相手として、有機物の岩佐教授に一緒にやらないかという誘いをかけたのだという。
 「すでに仮説は立っていました。二人で研究をすることが決まった段階で、この成果は必然的だったといえます」
 さて、第3の手法でこれからすぐにさらなる新規材料を探し、高温化を目指す、とはいかないようだ。第3の手法は、ようやく端緒に付いたばかりで、材料探しに入る前に、解決すべき問題点がまだいくつかあるという。
 「ただし、何をすればいいかわかっています。あとは解決策を一生懸命考えるだけです。それが済めば、流れるように研究が進むんじゃないかと考えています」と川崎教授。今後の研究の進展に期待したい。

TEXT:大宮耕一/PHOTO:吉松伸太郎