Topics02 「植物資源変換システム」による森林資源の前進循環活用とは?
次世代の資源としてバイオマスへの注目は高まっているが、
自然への理解を深めず利用すれば、地球環境の崩壊も危惧される。
三重大学の舩岡正光教授は究極のリサイクルを提唱している。

Part01 舩岡教授の哲学
自然界にゴミはなし。すべての物質は重要な環境構成要素。

化石燃料の代替資源として森林資源に注目が集まるが……。

舩岡正光(ふなおか・まさみつ) 生態系の本質を理解してこそ森林を使えます。
三重大学大学院生物資源学研究科教授。1975年、三重大学大学院農学研究科修了後、同大学助手、助教授を経て、1997年より現職。ミシガン工科大学、ニューヨーク州立大学、ドイツ森林資源研究所において客員教授を歴任。森林資源を活用した循環型社会を確立する技術を研究している。

 地球の温暖化問題が叫ばれ、化石燃料に代わって植物の利用が進んでいる。特にバイオエタノールの需要は世界的に高まっているが、現在の技術ではトウモロコシやサトウキビを利用するため、穀物市場への影響は避けられない。
 そこで樹木に含まれるセルロースなどの炭水化物から燃料を作る取り組みも始まっている。樹木は消費してしまっても再び育成すれば持続的な利用が可能だろう。そのため、森林資源を利用することにより、地球温暖化だけでなく、化石燃料の枯渇も解決できると期待されている。
 しかし、森林資源への理解を深めずに、その利用だけが進むと新たな問題が発生すると警鐘を鳴らす研究者がいる。三重大学の舩岡正光教授(戦略的創造研究推進事業SORST「植物系分子素材の逐次精密機能制御システム」研究代表者)である。
 「植物は光合成により二酸化炭素などの分子を濃縮してくれます。そして、枯死すると徐々に分解され、もとの物質へと戻ります。こうした時間をかけた植物の循環システムを理解して森林資源を利用しないと、環境を破壊してしまいます」
 下の図をご覧いただきたい。これは樹木の成長過程(フェーズ1)を経て、森林が形成(フェーズ2)され、枯死した後、分解されていく(フェーズ3)という変化を示している。フェーズ1以前は、分子(=二酸化炭素)が拡散しているため、人間は利用できないが、環境中の二酸化炭素が植物に取り込まれて集合化すると、人間にも利用できるようになる。

図1植物の循環システム(炭素の流れとしての森林資源)

物質が変化していく植物の循環システムを維持すべき。

 ただし、こうした循環システムの中で登場する物質は、人間だけのものではない。朽ちた樹木などは、人間には無用に思えるが、循環システムの過程を構成する重要な存在である。物質が変化していくそれぞれの過程は、生態系の中で大切な役割を担っているのだ。そのため、この循環システムを崩すような利用があってはならないと、舩岡教授は説明する。
 「例えば、樹に実った真っ赤なリンゴは人間にとっては製品です。しかし、樹から落ちて腐ったリンゴをミミズは待っている。自然界に主役・脇役、製品・ゴミは存在しない。すべて重要な意味を持った主役です。ですからこの特徴を生かすような利用でなければならない。そうでなければ、環境を撹乱しない持続的社会は不可能です」


Part01 植物資源変換システム
生態系の流れにしたがい、材料としても“なめらか”に流す。

分解の早い糖質だけでなく難分解性のリグニンも利用する。

物質の変化に則った利用で資源枯渇はない。

天然リグニンから誘導した新素材リグノフェノールを再度、製紙パルプと複合すれば、木の質感あふれる再生木材になる。

 では、どのようにすれば、植物の循環システムを撹乱させずに、森林資源を利用することができるのだろうか。その答えとなるのが、植物の循環システムにおける物質の変化に合わせた利用だという。
 森林資源が再生可能だといっても、樹木が成長するのに相応の時間が必要だ。すぐに燃やせば、資源を消費する時間はごくわずか。しかも、現在、利用が推進されているのは分解の早いセルロースなどの糖質ばかり。これではフェーズ3の変化の勾配はさらに“きつく”なり、森林系炭素の気体―固体バランスは気体側にシフトし、地球温暖化を促進することになる。
 舩岡教授はリグニンの利用なしに、健全な森林の循環は不可能と説明する。リグニンは樹木が直立するための支持などに関わる高分子で、約30%も含まれている。これを利用できればフェーズ3の変化の勾配は“ゆるやか”になるだろう。ただ、リグニンには大きな問題がある。
 「リグニンは難分解性ですが、環境変化に感受性の高い分子であるため、熱化学処理を加えるとすぐに変性してしまいます。これまで多くの研究者が研究してきましたが、誰もリグニンの特性を破壊しない分離技術を開発できなかったんです」
 舩岡教授は、木粉にフェノールを加え、これでリグニンの変性を抑え、新しい機能を持ったリグニン素材を誘導することを考えた。次に酸と混合して激しく攪拌。すると親水性の炭水化物が酸に出てくるため、疎水性のリグニンがフェノールに残り、リグノフェノールとして簡単に分離できる。しかも、室温で反応するため、エネルギー消費はごくわずかだ。
 2007年には連続稼動可能な植物資源変換プラントを学外に建設し(下写真)、リグニン(リグノフェノール)の大量生産に向けた開発が進められている。

第3号植物資源変換システムプラント


連続稼動が可能な植物資源変換プラント。
大量生産に向けた研究が進んでいる。

図2 究極の森林資源リサイクルシステム

開発進むリグニン由来の機能性材料。

 リグニンを分離できれば、次は実用化に向けた研究が待っている。例えば、成形した製紙パルプにリグノフェノールを加えて作られる木材そっくりの新素材(上写真)については、実用化に向けた応用研究まで進んでいる。
 といっても、再生木材としての利用は、木質材料が高分子から低分子へと変化していく一過程での利用形態に過ぎない。舩岡教授が理想とするリサイクル社会の実現には、物質の変化にあわせて木質材料を利用していく“前進循環活用”が不可欠なのだ。最初は高分子の材料として利用し、徐々に構造を解放して、低分子材料としても利用。最終的に石油の成分と同じ物質まで解体した後、石油に代わる工業原料として利用する。こうした前進循環活用が実現した社会こそが、舩岡教授が想い描く、森林資源を基盤とした究極のリサイクル社会である。

TEXT:斉藤勝司/PHOTO:大沼寛行


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JST News 発行日/平成20年4月
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