Close up 個人研究者の交流から何が生まれるか? さきがけ領域会議の真実。
JSTの戦略的創造研究推進事業 個人型研究「さきがけ」。そこでは若き研究者たちが、明治維新の志士のごとく、科学技術への志に燃え、熱い議論をたたかわせているという。その真実や如何に。

科学技術の世界の芥川賞・直木賞。

 若手の研究者と話をしていると、「さきがけ」という言葉をよく耳にする。例えばこんな具合だ。
 「『さきがけ』に受かったときは、うれしかったですね。これで思い切り好きな研究ができるって」
 「私は5回目の挑戦でようやく『さきがけ』に受かりました」
 「『さきがけ』の領域会議は運動部の合宿みたいな感じ。みんなで夜通し、研究について議論するんですよ」
 「面白そうなシンポジウムに出かけたら、パネラーがみんな『さきがけ』出身でした」
 「『さきがけ』で培った人脈や経験は、私にとってかけがえのない財産です」
 「さきがけ」とは、JSTの戦略的創造研究推進事業の一つ。この事業では、国が示した戦略目標に基づいてJSTが毎年いくつかの研究領域を設定し、研究を推進するためのさまざまな支援を行う。方法はいくつかあるが、中でも「個人型研究」と呼ばれるのが「さきがけ」で、研究チームを編成するのではなく、研究総括と10名余りの領域アドバイザーのもと、研究提案を個人研究者単位で公募、選考し、採択する。研究期間は3年間で、研究費は1課題あたり数千万円程度。そのメンバーに選ばれることが、文学界での芥川賞や直木賞のように、科学技術の若手研究者の登竜門として認知され、「さきがけ出身」が一つのブランドのように見られているのだ。
 登竜門とはいっても、選ばれるだけで竜になれるわけではない。3年間の活動を通して、各メンバーが研究者として大きな成長を遂げ、竜になる。その主な場となるのが、先ほどの言葉にも出てきた「領域会議」だ。年2回程度行われる研究発表と議論の場で、ここでもまれることで、研究者として大いに鍛えられるという。
 なぜ「さきがけ」は、若手研究者の登竜門として「名」も「実」も兼ね備えた存在になっているのか。ほかの研究とどこが違うのか。その真実を知るために、領域会議を訪れた。


実績主義ではなく、面白いテーマを採用。

さきがけ」はアイデアの面白さや独創性をみてくれるんです。/研究者 三輪佳宏 1966年生まれ。筑波大学大学院人間総合科学研究科講師。専門は分子生物学。「構造機能と計測分析」では1期生で、「生細胞内分子を見るデグラトンプローブの開発」がテーマ。

面接では、「だまされたふり」をすることもあります。/領域アドバイザー 北森武彦
1955年生まれ。東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻教授。専門は応用分光分析、レーザー分光化学。「さきがけ」には1998年より「状態と変革」領域に参加。

 12月14日の夕方から、「さきがけ」の「構造機能と計測分析」領域の領域会議が行われた。
 この領域は、新現象の発見と解明のために重要な計測・分析技術に関して、個人の独創的な発想に基づく、これまでにない革新技術の芽の創出を目指す研究を対象とするもの。平成16年度に発足し、平成18年度まで3回の募集を行った。物理、化学、生物と広い分野から研究者が集っている。1期生24名、2期生7名、3期生9名の計40名が研究を行っている。
 領域会議の中でも核心部分といえる発表会を行い、熱い議論をたたかわせるのは翌15日。14日は懇親会のみで、リラックスした中にも達成感に満ちた表情を浮かべた人々が多い。
 定刻になり、すぐに懇親会が始まるかと思えば、その前に一つのイベントがあった。今年度で研究期間を終える1期生たちの「卒業式」だ。拍手や笑い声に包まれ、研究総括が一人ひとりに卒業証書を手渡していく。こうした式は必ず行うわけではなく自主的なものだが、ほかの領域でも行われることが少なくない。こんなところにも、「さきがけ」の仲間意識の強さがうかがえる。
 卒業式の後は懇親会。くだけた雰囲気のなかでも、話題はやはり研究のこと。ザッと見渡したところ、確かに40歳前後と思われる若手が多いのが目につく。この「若さ」は、「さきがけ」を語るときに欠かせないキーワードだ。
 1期生の三輪佳宏さんはこう語る。
 「僕らのような若手研究者が研究費に応募すると、いくらアイデアが面白くても実績がないという理由でなかなか選ばれません。でも、『さきがけ』は、アイデアの面白さや独創性をみてくれるんです」
 アドバイザーの北森武彦さんは、そこにこそ「さきがけ」の意味があるという。
 「研究費の多くは、この人ならこういう結果が出そうだとわかるものを選ぶことが多い。でも、そればかりでは若手研究者がリスクのある研究をしなくなるおそれがある。これでは科学技術は発展していきません」
 「さきがけ」がそれらとは違うことは、課題を選考する面接の際にはっきりと現れる。面接者を務めた北森さんはこう語る。
 「どこでも聞いたことがない、本当にそんなことが実現できるのか確信はもてないものも、面白そうだと判断すれば採用しています。説明を聞いてわからなくても、『だまされてあげる』こともありますよ」
 1期生の長谷川健さんは、自身のテーマは「さきがけ」だからこそ採用されたという。
 「私のテーマは『存在しない光』について研究するもので、一見してアヤしい感じを受けると思います。でも、その独創性は『さきがけ』なら認めてもらえると思っていました」
 ただし、それは基準が甘いということではない。厳しい質問を浴びせられ、泣き出す人もいるという。2期生の一二三恵美さんも自身の面接のとき、ダウン寸前になった。
 「どうしたらいいかわからなくて、パソコンを置いたまま帰ってしまおうかと思いました。絶対落ちたと思っていたら採用されていたので驚きましたね」
 実績主義をとれば、選ぶのも簡単だが、オリジナリティ−や独創性を重視するとなれば、面接者のほうにもそれを見抜く目が求められる。だからこそ、研究内容は厳しく審査されるのだ。


発表前夜の心境は、「首を洗って待っています」。

 こうした厳しさが発揮されるのは面接のときばかりではない。年2回の領域会議の発表会は、研究内容に不備な点があると、シビアに指摘され、答えられずに立ち往生してしまうことも少なくないという。今回、2日目の発表会で出番がない三輪さんは、初日の夜の懇親会で、「半年間、きちんと成果が上がったといえるときにはいいんですが、そうでないときはドキドキして仕方ないんですよね」といいながら余裕の表情。その一方、発表を行う一二三さんは、「今回は、あまり自信がないんです。首を洗って待ってます」とため息をついていた。


さきがけ研究「構造機能と計測分析」第7回領域会議 2007年12月14日(金)〜15日(土)

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JST News 発行日/平成20年2月
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