Topics01 ”サイエンスコミュニケーション”を培養する。
“科学と社会をつなぐ”広場(アゴラ)となることを目指して開催されるサイエンスアゴラ。一般市民から科学者・研究者まですべての人々に開か れた科学の広場は、どのような成功と課題を残したのか。

サイエンスコミュニケーションの重要性。サイエンスアゴラへの期待。

仕掛人 「多くの人に科学を知ってもらうために」サイエンスアゴラを企画したJSTの長神風二。
 2007年11月23日から25日の3日間、サイエンスアゴラ2007が開催され、サイエンスコミュニケーションに携わる多くの人々と、科学に興味のある一般の人々が東京お台場の国際研究交流大学村に集まった。サイエンスアゴラは、日本最大級のサイエンスコミュニケーションイベントだ。2回目となる今回は、公募などで選ばれた124の団体が94のプログラムに165の出展を行い、3日間の参加者は一般の来場者、関係者を含め約3000人と、昨年を上回った。
 遺伝子組み換え食品の問題や環境問題などのように、現代の社会では科学の進歩が身近な生活にも大きな影響を与えるようになってきている。今までのように科学の発展が人間の進歩につながると単純に考えることはできない。そのため、科学の進歩の良い面、悪い面を、科学の専門家でない一般の人が知る必要が出てきている。この状況を踏まえて、専門家と一般の人との間をつなぐ役割を果たすのがサイエンスコミュニケーションだ。
 日本でも近年、ようやくサイエンスコミュニケーションの動きが顕在化するようになってきた。しかし、まだ一般に定着しているとはいいがたく、サイエンスコミュニケーションを担うサイエンスコミュニケーター同士のネットワークもまだまだ未成熟な状態といえる。
コント団グモッチュ 東京大学の大学院生たちが、ライフサイエンスを題材にしたコントを披露。会場は笑いにつつまれていた。
 サイエンスアゴラはもともと、このような状況に対する問題意識から企画された。これを提案し実行に移したのは、実行委員会事務局を務めるJST科学技術理解増進部の長神風二だ。
 サイエンスアゴラという場を作り、大規模なイベントを行うことで、サイエンスコミュニケーションという新しい動きが始まっていることを社会全体に訴える。それと同時にサイエンスコミュニケーター同士の連携が、これをきっかけに生まれていく。これが、サイエンスアゴラに期待されていることだ。
 サイエンスアゴラ2007のテーマは「みんなでつなごう未来のスイッチ」。
 昨年のテーマが「科学と社会をつなぐ広場をつくる」と、広場(アゴラ)作りそのものだったのに対し、今回は「サイエンスコミュニケーター同士の連携を促し、次代の発展を模索するという本来の目的により近づいた」(長神)テーマとなった。

サイエンスコミュニケーター同士の連携が始まる。

 「科学コミュニケーションの手段のひとつとしてインターネットラジオがあるということを、多くの人に知って欲しかったんです」と話すのは、インターネットラジオ局くりらじで、人気の科学番組「ヴォイニッチの科学書」を配信する中西貴之さん。昨年は登壇者として参加した中西さんが、今回オーガナイザーとして参加した理由のひとつをこう語ってくれた。
 中西さんはコミュニケーション手段を提案するだけでなく、多くの関係者が集まるこの場で提案を行うことで、問題点を見出してもらい、サイエンスコミュニケーションをステップアップしていきたいと考えているそうだ。また、次にどんなことをするかというアイデアを得ることも期待しているという。
 サイエンスアゴラという大きな場は、サイエンスコミュニケーション関係者にとって自分たちの活動を広くアピールするための格好の場となっている。しかし、それだけではなく、自分たち以外の人たちに触発されることも期待して参加しているようだ。こうしたことが、サイエンスコミュニケーター同士の連携につながっていく。
 科学読物研究会の代表、原田佐和子さんも、参加理由のひとつとして「ふだん個々に活動して横のつながりがないので、多くのサイエンスコミュニケーターが集まるこの場で、横のつながりをつくりたい」ということを挙げた。サイエンスアゴラは、参加した多くのサイエンスコミュニケーターたちに、連携を生み出す場として認知されているようだ。
 すでにサイエンスアゴラをきっかけにして生まれている連携もある。「サイエンスカフェを考える会」は、全国のサイエンスカフェ関係者が集い、意見交換する場を創出することを目的として生まれた組織横断型のグループだ。サイエンスアゴラ2007では、それぞれのサイエンスカフェの活動がポスター展示で行われ、24日の夕方からは、「『サイエンスカフェ』って何?〜できることをさぐろう」と題して、全国のサイエンスカフェ関係者たちによる議論が繰り広げられた。
 このほかにも、昨年のサイエンスアゴラ2006で知り合った仲間と今回企画を行ったというグループもあった。
 一方で、自分たちの企画で手一杯で、ほかの人たちと交流することがなかなかできなかったという意見もある。もちろん、各自の意識の問題もあるが、連携を生み出す場をどのようにプロデュースするのかは、今後の課題のひとつだろう。

サイエンスアゴラ 2007 11.23(金)、24(土)、25(日)国際研究交流大学村にて開催

次代の発展へ。若きサイエンスコミュニケーターの挑戦。

かはくSCこはく(有志) 国立科学博物館サイエンスコミュニケータ養成実践講座の第1期生が中心。新感覚のサイエンスカフェを提案。

 駅弁の売り子のような箱を持った天使が、サイエンスアゴラの会場のそこかしこに出没していた。その周りに人が集まっている。北大deMobileCafe(デ・モバイルカフェ)の企画だ。
 箱の中には、実験道具などが入っている。来てもらうのではなく、自分から出向いていって、その場で科学の話や実験をするのだ。まさにモバイル実験教室。会場には、こうした面白い企画を行っている若い人たちが多く見られた。
 2日目に、「理科On喫茶〜新感覚サイエンスカフェへようこそ!〜」と題して、サイエンスカフェの新しいスタイルを提案するという意欲的な企画を行っていたのも、国立科学博物館のサイエンスコミュニケータ養成実践講座の第1期生を中心につくられた若いグループだ。代表者の福士碧沙さんによれば「今までのサイエンスカフェのありように疑問を持っていました。何かを教えるとか学ぶとかいうのではなく、友だちと気軽にやってきて、その人たちの興味に応じて科学に関するコミュニケーションを楽しむことのできる、自由度の高いサイエンスカフェを提案したい」と思って参加したという。
 笑いとサイエンスの融合という斬新な企画を行ったのは東京大学の大学院生による「コント団グモッチュ」。代表者で、自身もコントを熱演していた柳沼秀幸さんは、「笑い」にこだわる。「科学の世界には研究者と一般の人の間、研究者と研究者との間に仕切りがあるように感じます。その仕切りを『笑い』が取り払ってくれる」という信念を持ち、このようなユニークな企画を生み出したのだという。
 若きサイエンスコミュニケーターたちが、サイエンスコミュニケーションというものを真剣に考えながら、そしておそらくは悩みながら、従来からある方法ではなく、何か新しい方法を見つけ出そうと真摯に取り組んでいる姿は、次代の発展を期待させてくれた。


サイエンスコミュニケーションの発展とサイエンスアゴラ。

 サイエンスアゴラは、サイエンスコミュニケーターの連携を生み出し、新たな活動のあり方を模索することを通してサイエンスコミュニケーションを培養する実験といえる。サイエンスアゴラ2007では、その培養のきざしを見ることができた。一方で、一般の人、研究者、サイエンスコミュニケーターと、多くの人を対象としているがゆえに、個々の企画のターゲットが固定しきれないなど、まだまだ課題は残されている。
 しかし、もっと大きな課題がある。サイエンスアゴラが目指すものは、単にイベントそのものの成功ではない。そのまなざしの先には、日本でのサイエンスコミュニケーションを定着させ発展させるという大きな目標がある。
 サイエンスコミュニケーションの今後の展望については、「地方をどうしていくかということ。国際的にどうつながっていくかということ。サイエンスコミュニケーションを象徴するスターをどう育てていくかということ」(長神)の3つが大きなポイントである。サイエンスアゴラという実験の場がサイエンスコミュニケーションの発展をどう担っていくのか、現在のやり方でそれが達成可能なのか、これこそが最も検討すべき課題であろう。
科学好きが集まって未来を模索し交流した楽しい3日間!

TEXT:大宮耕一/PHOTO:大沼寛行


戻る 目次へ 次へ

JST News 発行日/平成20年1月
編集発行/独立行政法人 科学技術振興機構 広報・ポータル部広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3 サイエンスプラザ
電話/03-5214-8404 FAX/03-5214-8432
E-mail/ ホームページ/http://www.jst.go.jp
編集長/福島三喜子(JST) 編集・制作/株式会社トライベッカ
デザイン/中井俊明 印刷/株式会社テンプリント