JST News Vol.4/No.10
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日本発の成果が世界を変えた!
科学技術振興機構の最近のニュースから……
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「免疫難病・感染症等の先進医療技術」研究領域の研究成果から
病気から私たちの体を守る「免疫」。その仕組みは謎に満ちている。戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)の「免疫難病・感染症等の先進医療技術」研究領域で謎を追う2人の研究者の姿から、そのミステリアスな世界に迫る。
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サイエンスアゴラ(science agora)という実験
野田 進 京都大学大学院工学研究科教授(兼)光・電子理工学教育研究センター・副センター長
日本科学未来館の耳より情報

あるときは保育器、あるときは孵化器

【フラン瓶】

 近年、比較的よく目にする欧文略称にBODがある。もとは英語のBiochemical Oxygen Demandで、「生物化学的酸素要求量」と訳される。こんな難しそうな概念が知られるようになったのは、1970年代以降に高まったエコロジー運動によってである。すなわち、「水質汚濁の防止」の基礎となる水質測定の指標となるのがBODなのである。これは簡単に言えば「水中の有機物(よごれ)を微生物が分解するのに要した酸素の量(単位mg/ℓ)」のこと。つまり、消費された酸素量(BOD)が多いほど汚濁が進んでいるわけである。
 そのBODを測定するための器具が、ガラス製共栓瓶の「フラン瓶」(incubator bottle)。フラン瓶に試料の水を詰める。水に溶けている酸素量を測ったら栓を閉めて密閉し、摂氏20度の暗所で5日間保存(培養)したのちに、再び酸素量を測る。最初が15mg/ℓで5日後が10mg/ℓなら、差し引き5mg/ℓがBODである。別の水で同様に測ってBODが9mg/ℓなら、こちらの水のほうが汚濁が進んでいるわけだ。測定は厳密を要する。表紙のフラン瓶は、瓶の口の周囲をカラー(襟)を立てたように広げ、ここに水を満たして、保存中に外部から空気が混入するのを防ぐタイプのものである。
 ところで、フラン瓶はなぜフラン瓶というのか、明確な説明を聞いたことがない。そこで英和辞典でincubatorを引くと、3番目の意味は「細菌(微生物)培養器」で、まさにフラン瓶のことだが、フランという名とはつながらない。2番目は「保育器」、これもちがう。そして1番目の意味は「孵卵器・人工孵化器」。鳥類の卵の人工孵化などに使われる電熱式の箱である。答えにお気づきだろうか。そう、孵卵=フランである。つまり、欧米で開発されたincubator bottleは、3番目の意味のものだった。ところが、それが日本にもたらされた際、関係者が機械的に1番目の意味、すなわち「孵卵・瓶」と訳した。その後、間違いに気づいたが、表記だけフランと改めてごまかし、現在に至ったのではなかろうか。
 これが正解なら大発見と威張りたいところだが、残念ながらこの説のプライオリティはウェブサイト「実験器具と仲良し」にあることを、告白しておかなくてはならない。
(文・西田節夫)
*『ランダムハウス英和大辞典』小学館 1994



JST News 発行日/平成20年1月
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