JST News Vol.4/No.9
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科学技術振興機構の最近のニュースから……
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大型超高精細スキャナーの開発と、その後の展開
何百年、何千年の時を超え、私たちの心を豊かにしてくれる文化財。
日本が世界に誇る貴重な芸術が、科学技術との出合いによって新しい命を与えられ、
さらに広く、深く、生き生きと輝き始めた。
Topics01
バイオテクノロジーの力で生態系を守りたい!
Topics02
サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト事業の実践事例から
古澤 明 東京大学大学院工学系研究科教授
日本科学未来館の耳より情報

巨人がつくった小さな完成品

【試験管】

 P・K・Oといっても国連活動の話ではなく、H・Bといっても鉛筆のことではない。P=リン、K=カリウム、O=酸素、H=水素、B=ホウ素、すなわち「元素記号」である。
 われわれの多くは、高校生のころ、元素名と元素記号がなかなか結びつかずに途方にくれたものだった。しかし、元素を文字(アルファベット)によって表すというアイデアが化学の進歩に決定的な役割を果たしたのは、まぎれもない事実である。というのは、中世以来の錬金術師たちが自分にしかわからない図形や模様で表していた元素を、ヨーロッパでもっとも広範な共通語であったラテン語による名称の頭文字で表す、という普遍的な方法(たとえば酸素はOxygeniumのO、鉄はFerrumのFe。他にギリシア語起源の語などもある)を得ることによって初めて、化学は近代科学として自立したからである。
 この元素記号による表記法を提唱(1813年)したのは、スウェーデンの化学者ベルセリウス(J.J.Berzelius:1779〜1848)。他にも、「触媒」「異性体」「有機物」など、現在も頻繁に使われる概念・用語をつくりだして、近代化学の基礎を築いた巨人である。
 試験管(test tube)もまた、ベルセリウスによって発明された。簡単に言えば「片方が閉じたガラス管」に過ぎない器具を“発明”とは大げさな、と思われるかもしれないが、どうしてよく考えられている。閉じられた底が丸底になっているのは、それによって強度・耐熱性を高める一方、ごく少量の液体でも視認できるためでもある。加えて、上端の開口部がわずかに広がって縁(リム)になっているのは、栓をしやすいようにである。また、ごく普通のもので外径15mm、長さ150mm程度という大きさは、混合のため指で挟んで振るのにじつにぴったりの大きさではないか。さらに、試験管、ゴム栓、栓を貫いて差し込まれる細いガラス管を組み合わせれば、フラスコ代わりに蒸留だってできるのである。
 単純でありながら、よく練られ、しかも汎用性も高いとは、おそるべし、試験管。巨人ベルセリウス、やはりただものではない。
(文・西田節夫)



JST News 発行日/平成19年12月
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