JST News Vol.4/No.8
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科学技術振興機構の最近のニュースから……
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セレンディピティー的研究の醍醐味について。
偉大な科学者たちには、ほかの人たちなら見過ごしてしまう出来事から
大きな意味を見出す力が備わっていた。そんな「セレンディピティー」的研究の
醍醐味を、カーボンナノチューブの発見で知られる飯島澄男教授が語る。
Topics01
JSTイノベーションプラザ・サテライトの仕事
Topics02
科学は社会のニーズにどう応えるか
八島栄次 名古屋大学大学院工学研究科教授
日本科学未来館の耳より情報

気体をごしごし洗う工芸品

【ガス洗浄瓶】

 気体(ガス)中に含まれている不要な成分を、液体に吸収させて取り除く(つまり「洗浄」する)ためのガラス瓶が、「ガス洗浄瓶」(gaswashing-bottle)である。気体をごしごし洗う瓶という意味で、「洗気瓶」(scrubbingbottle)ともいう。
 ガス洗浄瓶の本体は広口の共栓瓶だが、ミソは栓に開けられた2つの穴と2本のガラス管にある。すなわち、一方の穴を通ってガラス管(A管とする)が長く瓶内に差し込まれ、もう一方の穴からは瓶の外側に別のガラス管(B管とする)が突き出るという細工が施されているのである。これがどのように働くのか、一例として塩素ガスを洗浄して、純度の高い塩素を取り出してみよう。一般に塩素ガスには塩化水素と水分が不純物として含まれているが、これを取り除こうというのである。
 水を入れたガス洗浄瓶の中にA管から塩素ガスを送り込んで水中に放出する。すると、ガスが水中を通って上昇する間に、水溶性の高い塩化水素は水(洗浄液)に溶けて吸収(洗浄)され、その分だけ純度の高くなった塩素ガスがB管から出ていく。さらに、このB管の先にもう1つガス洗浄瓶を連結し、瓶内の濃硫酸を通せば、吸湿性の強い濃硫酸(乾燥液)によってガス中の水分が除去されて、乾燥した純度の高い塩素を得ることができる。つまり、2つのガス洗浄瓶により「洗浄」と「乾燥」を行うことで、塩素が「精製」されたわけである。精製のための洗浄・乾燥――これがガス洗浄瓶の本質的な役割である。
 ガス洗浄瓶は、19世紀の後半にドイツの医化学者ドレッシェル(E.Drechsel1843〜97)によって発明された。その後、ガスと洗浄液との接触面積・時間を大きくして洗浄効率をあげるため、主としてA管の形態を変えた改良形(ミュンケ式やウォルター式など)がいくつも作られた。表紙の瓶もその1つで、A管先に横板のようなフィルターをつけて微細口からガスを噴出させるタイプのもの。それにしても、実験器具ながら何と微妙で繊細な造りであろう。その工芸品のような美しさについ見とれてしまうのは、私だけだろうか。
(文・西田節夫)



JST News 発行日/平成19年11月
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