JST News Vol.4/No.6
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科学技術振興機構の最近のニュースから……
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スーパーサイエンスハイスクール生徒研究発表会レポート
科学を愛する全国のスーパーサイエンスハイスクールの高校生が集う、
年に一度の生徒研究発表会。日頃の研究成果を思い切りぶつけ合い、高め合った、
熱い真夏の2日間の模様を、高校生たちの生の声とともにレポートする。
Topics01
システムバイオロジーとは何か?
Topics02
先端計測分析技術・機器開発事業3年間の成果
佐方功幸 九州大学大学院理学研究院教授
日本科学未来館の耳より情報

簡便なる熱源が誘う「研究的態度」

【アルコールランプ】

 円形平底のガラス瓶の中にアルコールが入っている。これに木綿の太い紐の下部を浸すと、アルコールは毛管現象によって紐の上部に吸い上げられ、マッチの火を近づければ燃え上がる――というのがアルコールランプ(alcohol lamp)の原理。アルコールの燃えやすい性質を利用した簡便な熱源として、すでに16世紀のころには錬金術師たちが用いていたというから、19世紀の発明が圧倒的に多い実験器具のなかでは、飛びぬけて古い。
 燃料のアルコールは古くはエタノール(エチルアルコール)だった。すなわち太古から人を魅了してきた酒の主成分(酒精)である。しかし現在の燃料は主としてメタノール(メチルアルコール)である。これは17世紀になって発見されたものだが、毒性が強く、誤飲すれば死に至る可能性があるので、注意しなければならない。
 さて、アルコールランプは、炎の最高温度は700〜800℃と、1,000℃を超えるガスバーナー(19世紀半ばに発明)に比べると低いけれども、取り扱いが容易で、携帯性に富み、ガスのない部屋でも使用できるという強みがある。そのため、小学校での理科の授業では、これでビーカー(あるいはフラスコ)の水を加熱するのが実験入門の定番である。
 その際、ビーカーによく水粒が付着するが、これはなぜと子どもに質問されたら、あなたはどう答えるだろうか。「何でもないことだ、アルコールの燃える際に生ずる水蒸気がビーカーにあたつて露になつて着くのだ」と、無造作に片づけてしまうのはよろしくないと、物理学者で随筆家の寺田寅彦(1878〜1935)が書いている。「水滴になるには何か塵の如き微細な所謂凝縮核が必要であるし、ガラスの表面の性質によつてつきかたにいろいろ異つた状態があつたり」するので、「唯一口で凡ての現象を説明し得るといふやうな感じを起こさせるのはよくない」「簡単に説明すればかうだ、皆さん此の外にどういふことがあるか考へて御覧なさいといつた風にして、彼等の求知心を強からしめ、研究的態度に出でしむるやうにありたい」*という。知識教育全盛の現在、味読すべき提言であるように思われる。
(文・西田節夫)
*「研究的態度の養成」1918年(『寺田寅彦全集』第一巻、岩波書店、1950年 所収)



JST News 発行日/平成19年10月
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