JST News Vol.4/No.6
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科学技術振興機構の最近のニュースから……
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対談
日本が成長を続ける鍵として注目を集めている「イノベーション」。
そもそもイノベーションとは何なのか。創出のためにどんなことが必要なのか。
イノベーションへの志にあふれる2人の研究者が、熱く語り合った。
Topics01
全球雲解像モデルによる気候研究
Topics02
それは、産と学の運命的な出合いから始まる!
伊藤耕三 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授
日本科学未来館の耳より情報

蒸留ならまかせなさい

【リービッヒ冷却管】

 自然界では物質は単独に存在することはほとんどなく、いくつかの物質(A・B・C)の混合物として存在するのが普通である。だから、中に含まれる物質Aの構造や性質を調べるためには、混ざり合っている中から純粋な物質Aを取り出す作業が必要になる。これが「分離・精製」で、化学実験の最も重要な操作のひとつである。これにはいくつかの方法があるが、一番わかりやすいのは「蒸留」だろう。蒸留とは、液体混合物に熱を加えて沸点の低い成分を蒸発させ、それを冷やして再び液化すること。たとえば、ワインを加熱すると沸点の低いアルコール分が蒸発する。その蒸気を沸点以下に冷却すれば再び液化して、より純度の高いアルコール、すなわちブランデーが得られるのである。
その「蒸気を沸点以下に冷却」するのに用いられるのが「冷却管」(condenser)である。長さ25〜60cmの細長いガラス管で、内管と外管にわかれており、内管に蒸気を通し、それを囲む外管に冷却水を流して冷やす(内外が逆の方式もある)。管の一端をフラスコに、逆の端をビーカーなどの受け容器につなげば、加熱により蒸発してフラスコから冷却管に入ってきた蒸気が、そこで冷却されて液化し、それがビーカーにたまるという寸法である。
 19世紀以来、形も方式もさまざまの冷却管がつくられ、アリーン、ジムロート、フリードリッヒなど、考案した化学者の名前が冠されて呼ばれているが、なかで最も早くに(1831年)考案され、最も有名なのが、ドイツの化学者リービッヒ(J.Liebig:1803〜73)の冷却管である。リービッヒは、有機元素分析法などによって有機化学の祖であり、植物の無機栄養論などによって農芸化学の祖であり、生化学の基礎を築いた一人でもあって、「リービッヒのカリ球」や「リービッヒの炭素定量法」など、彼の名を冠した化学の用語も多い。なかでもとびぬけて有名なのが冷却管だが、じつは本当の考案者はモール(F.Mohr)という化学者で、リービッヒはその報告をしただけらしいとは、なんとも皮肉な話である。
(文・西田節夫)



JST News 発行日/平成19年9月
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