「文化」と「科学」の不思議な関係。

人間のさまざまな行動や生活の様式を示す「文化」と、人間の生活を便利にする「科学技術」。
一見、水と油にも思える2つを融合しようという試みから、人類の未来が見えてきた。

研究領域:デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術 研究総括 原島博
東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授。同大学情報理工学系研究科教授。日本顔学会会長、日本アニメーション学会顧問、NHK放送技術審議会委員など、さまざまな分野で活躍している。

工学系の先生が画家に混じってデッサンを。

 JST戦略的創造研究推進事業の研究領域「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」が始まったのは平成16年度のこと。世界に名高い日本の文化であるアニメーション、ゲームソフトなどのデジタルメディア作品を支える科学技術に注目した研究は、モノづくり中心だった日本の科学技術の新しい動きとして話題を呼んだ。
 文化と科学という、これまで接点のなかった2つが融合したテーマだけに、研究現場では新しい出会いが生まれた。研究総括である原島博教授は、そこからこれまでにない研究が進んでいると語る。
 「美大や芸大の先生方が参加することは、今までのJSTの研究にはなかったでしょう。たとえばCRESTの藤幡正樹先生のチーム(デジタルメディアを基盤とした21世紀の芸術創造)では、工学系の先生が画家の方たちと一緒にデッサンをして、キャンバスを見る時間とモデルを見る時間の比率を比較し、描くという行為を科学技術の視点から研究しています」
 「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」では、1つの研究領域内で個人型(さきがけ)とチーム型(CREST)の研究が進められている。平成16年度に領域が立ち上がってから、3回にわたり研究課題を募集した。原島教授は研究課題の採択にあたって、広がりをもたらすことを常に心がけてきた。さまざまな研究分野への広がりは、下図の「CRESTマップ」に象徴される通りである。

CRESTマップ
「芸術・文化、科学・技術、社会・産業の3つが一緒になってこそ未来がある」と語る原島教授。「先端技術ショーケース」(P5参照)は、芸術・文化の分野の人たちに科学・技術を紹介し、科学技術がアート表現の素材であることをアピールしている。

「科学技術」を「文化」として未来に発信するために。

 「当初のねらいは、異なる分野である科学技術と文化とを結びつけようというものでした。しかし、じつは科学技術こそ文化ではないかと思い始めたのです。ギリシャ・ローマ時代の文化が建築や哲学に象徴されるように、1000年後の歴史書に今の時代を記すとしたら、科学技術こそが文化ではないかと」
 だとすれば、今花開いている科学技術を博物館や美術館のように残していかなければならない。しかし、実際には新しい科学技術が開発されると以前のものは捨てられている。そんな視点から見ると、この研究はさらに違った顔をのぞかせる。
 「たとえばCRESTの斎藤英雄先生の研究(自由空間に3次元コンテンツを描き出す技術=下参照)などは、科学技術自体を後世に伝えるための有効なツールにもなります。デジタルメディア作品の制作を支援することが、文化としての科学技術を発展させ、その科学技術を文化として後世に残すための手段となる。それが実現すれば、すべての科学技術者が恩恵を受けるでしょう」
 当初はまったく新しい試みに思えたテーマが、科学技術の中心を担う研究へと発展していく可能性が見えてきた。

自由空間に3次元コンテンツを描き出す技術。

研究の狙い
 平成18年度から始まった、慶應義塾大学の斎藤英雄教授をリーダーとする「自由空間に3次元コンテンツを描き出す技術」(CREST)の研究は3つのグループの力を合わせて進められている。
 斎藤教授は、東京大学の苗村健准教授らとともに、コンテンツ制作を担当。たくさんのカメラでとらえた2次元の画像で3次元の映像を創り出す。しかし現在の技術では、2次元のディスプレイでバーチャルに再現することしかできない。
 そこを補うのが、同じ慶應義塾大学の内山太郎教授、村上俊之教授らが、(株)エリオや(独)産業技術総合研究所と共同で行う、空中に3次元的な画像を浮かび上がらせる技術の研究だ。この2つを組み合わせれば、空間にさまざまな3次元の映像を浮かび上がらせられる。
 さらに、広告代理店の電通が参加し、さまざまなメディアでのこの技術の応用の可能性を考えている。
 「今は、簡単な1色の図形ですが、色をつけて花火を再現することを目指しています。30代から40代の若い研究者ばかりの私たちのチームがCRESTに採択されたのは、おそらく独創性を評価していただけたからでしょう。その期待にこたえられるよう、成果を出していきたいですね」

研究体制
ベースとなる研究
未来予想図
研究室


斎藤教授の研究室にはビリヤード台がある。息抜きのためではなく、3次元映像再現の技術を利用した、ビリヤードのバーチャルコーチの研究も進めているのだ。

TEXT:十枝慶二/PHOTO:植田俊司


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JST News 発行日/平成19年6月
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