JST News Vol.4/No.3
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科学技術振興機構の最近のニュースから……
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人と人とが心を通わすように、人とロボットがコミュニケーションする。
そんな夢のような話が現実になろうとしている。アニマルセラピーならぬロボットセラピーと、
人に優しいパートナーロボット、2つのかたちをご紹介。
Topics01
デジタル技術とアートの融合から見える表現の未来
Topics02
DDS技術による画期的な外用剤の開発で企業設立
酒井 邦嘉 東京大学大学院総合文化研究科准教授
日本科学未来館の耳より情報

いったい桶なのか、鳥なのか

【ビーカー】

 リチウム、硫化水素、スペクトル、溶媒、ゾル、ラクムス(リトマス)、メチール(メチル)、コペルニクス、ニュウトン、ダーウヰン―これらは理科の教科書から引いてきた語ではない。すべて、一人の詩人の詩群中から抽出したものである。詩人の名は宮澤賢治。賢治は農芸化学を専攻した化学者であり、農学校で代数・化学・気象・農産製造などを教えた教師でもあった。鮮烈な自然と宇宙的な幻想にあふれた彼の心象スケッチ(詩)や童話のなかに、化学・物理・天文・地学など科学の言葉が頻出するのは、そのためである。
 そんな賢治に、ずばり「実験室小景」と題する詩がある(『春と修羅 第三集』)。化学実験室内でのとりとめのない対話からなる奇妙な作品だが、その冒頭にこんな一行がある。

ビーカー、フラスコ、ブンゼン燈

 賢治は化学実験室を代表する器具としてこの3つを選んだのだろう。実際だれもが、この一行から、古びたたたずまいの化学実験室をなつかしく思い浮かべるにちがいない。
 さて、化学者・賢治によって第一に選ばれたビーカー(英:beaker)は、主として溶液を入れて反応・攪拌するために用いられる円筒形(あるいは円錐形)の容器。50ml入りから10l入りまで、さまざまな大きさがある。
 語源については、「桶・杯」を意味するギリシア語のbikosが、ラテン俗語のbic(c)arium、中世英語のbikerを経て、現在のbeakerになったとするのが一般的である。しかし、もう一つの説がある。ビーカー上端に尖ってやや突き出ている水差し口は、何かに似てはいないか。そう、鷲や鷹の「くちばし」にそっくりではないか。くちばしは英語でビーク(beak)という。そこでビーカーというようになったのだ、という説である。桶や杯という当たり前の説より、こちらのほうが説得力があるように思われるが、いかがであろうか。
(文・西田節夫)



JST News 発行日/平成19年6月
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