ニセ科学にだまされないために!なぜ、日本人は科学リテラシーが低いのか?
日本人の大人の大多数は子どもの頃に比べると、科学技術への関心が低くなる。関心は低くても、科学を大切に思い信じているから、ニセ科学にだまされる。そんな現状に警鐘をならす左巻健男教授に話を聞いた。

物事を見極める手がかりを掴め!

Q

まずは次の問題に挑戦してみましょう。

 次の①から⑪のそれぞれについて、「正しい」か、「誤っている」かをお答えください。もし、あなたが知らない時や、自信がない時は、「わからない」とお答えください。

① 地球の中心部は非常に高温である。
 正しい 誤っている わからない
② すべての放射能は人工的に作られたものである。
 正しい 誤っている わからない
③ 我々が呼吸に使う酸素は植物から作られたものである。
 正しい 誤っている わからない
④ 男か女になるかを決めるのは父親の遺伝子である。
 正しい 誤っている わからない
⑤ レーザーは音波を集中することで得られる。
 正しい 誤っている わからない
⑥ 電子の大きさは原子の大きさよりも小さい。
 正しい 誤っている わからない
⑦ 抗生物質はバクテリア同様ウイルスも殺す。
 正しい 誤っている わからない
⑧ 大陸は何万年もかけて移動し続けている。
 正しい 誤っている わからない
⑨ 現在の人類は原始的動物種から進化したものだ。
 正しい 誤っている わからない
⑩ ごく初期の人類は恐竜と同時代に生きていた。
 正しい 誤っている わからない
⑪ 放射能に汚染された牛乳は沸騰させれば安全である。
 正しい 誤っている わからない

これらの問題は、文部科学省の科学技術政策研究所が2001年に行った「科学技術に関する意識調査」のなかで、欧米日各国の科学技術の基礎概念理解度を比較するために使用された共通問題です。その結果は以下のようになりました。

科学技術の基礎概念理解度
正解


科学は生きていくうえで別に必要ない?

左巻健男教授 Profile サマキタケオ
同志社女子大学現代社会学部現代こども学科教授。社会技術研究開発センター「科学技術と人間」研究開発領域にて平成17年度より「市民の科学技術リテラシーとしての基本的用語の研究」を進めている。

 「科学リテラシー(科学の基礎常識)が低いからって、何か困るの?」と、首をひねっているあなた。別に科学を知らなくても、日常生活に困らないと思っていないだろうか。だがそれは大きな間違いだ、と左巻教授は言う。
 「なぜかって、人間が生きていくうえで最低限必要な空気や水、食、エネルギーなどに関する知識、すべて科学から得られるものじゃないですか。生存の根源にかかわることについて、無知でいていいはずがない。いい水やいい空気に、みんな興味があるでしょう。だから世間では『○○が入っていて体にいい水』『××を取り除いた体にいい空気』などというのが、売り文句になるのです」
 確かにそうした言葉に飛びつく傾向が、私たちにはある。
 「科学的センス、そしてリテラシーなしに、そこに説明されている論理が正しいかどうかを吟味することはできません。ニセ科学の言うことは、すべて嘘ではないんです。8〜9割は正しい。たとえば『活性酸素を除去して、体を元気にする活性水素の錠剤』がある。この活性水素の存在はまだ不明です。酸素は水素と結びつけば、水になる。これは正しい科学です。
 しかしその活性水素が本当に存在するのかどうか。存在するとして、体内で本当に働くのか?そこがはっきりしていないのに、信じて飛びついてしまう」
 日本人は科学に関心はあまり持っていないが、科学を大切に考えているので、科学らしい装いに弱い。信じる前にまず批判的に調べる意識を持たなければ。そのために科学リテラシーが必要なのだ。

知識格差が広まろうとしている。

 科学リテラシーは、人間が共通に持っていなければならないもの。しかし日本はこのレベルが先進国中、非常に低い。先ほども述べたように、科学に対する大人の関心は低く、新聞やテレビで報道されている科学の情報にも、ほとんど興味を持たない。これは学校の理科教育が、「大人になってからも科学を学びたい」という意欲の促進に失敗しているからだ、と左巻教授は考える。
 「理科の授業といえば、テキストから一方的に受け取るもの。自分で考えたり、考えたことを確かめたりという、自発的な思考力、行動力をまったくと言っていいほど育てていない。テストのためにただ覚えて、テストが終われば忘れてもいい、入試で使ったらもう用はないみたいなものだったからです」
 大人たち以上に大変なのが、今の子どもたちの置かれている状況だ。教育制度がいろいろと変わり、理科の授業時間数が減り、結果として理科の授業内容が非常に薄くなっている。これではせっかく学習した理科の知識がなかなか身につかない。
 「たとえば塩水などの濃度を測る授業が義務教育課程から姿を消しています。小学校の算数で、パーセンテージの計算は習います。この知識は濃度の計算などで使って初めて、生きたものになるのに…。自分が覚えた事実や概念、法則がどう使えるのか?知識を技として使うことが大切なのです」

専門家の知識ではなく一般的に知っておくべきことを。

 こうした危機的状況を憂え、左巻教授は日常生活で必要と思われる、科学リテラシーとしての基本用語の選定に着手した。その考えに共感する人々を募り、物理・生物・化学・地学・工学・環境の各分野から、現在の小学校・中学校の教育をよく知っている人たちが集まった。基本用語の洗い出しの手順は次のとおりだ。
1、最近5年間の教科書、新聞記事、年報的な用語辞典から各分野の基本用語を抽出。
2、抽出された用語が、市民の科学技術リテラシーにふさわしいものかを会議で検討。各分野200語くらいに絞る。
3、各語について平易な言葉でわかりやすい解説をつけ、「市民の科学技術リテラシー」事典として発表。
 それぞれの分野の専門家は、ついあれもこれも知っておいてほしいとたくさんの用語を挙げてしまう。しかし会議の議題にのると意外にほかの分野の専門家は知らない言葉であることが、ままあるそうだ。
 「他分野とはいえ、大学教授レベルで知らない言葉は一般市民レベルで必要な基本用語とは言いがたい。私たちが目指すのは市民のための科学リテラシーの基本用語。単語1つひとつを会議で選定するので時間がかかりますよ」

科学技術基本用語事典

科学への興味を高めるきっかけにもなる1冊に。

 現在、選定はほぼ最終段階を終え、これから解説の執筆にかかるところ。再来年には完成予定だ。左巻教授は、できれば事典として出版するだけでなく、検索しやすいようにWebの形をとったものも作りたいと考えている。
 「この『市民の科学技術リテラシーとしての基本的用語』事典は、専門家を作るための本ではなく、普通の生活を営むうえで必要と思われるものだけを厳選した、科学の事典です。こうした基本的用語の知識が、科学リテラシーの基礎になるのです。言葉の雰囲気が何となくわかるレベルでも、科学に対する意識はかなり変わるでしょう」
 たとえば新聞に新しい科学の情報が掲載されていたとき、「大体こんな話か」と大雑把にでも理解できれば、もっと科学に対する興味もわくはず。
 「科学は人間が生きていくうえで必要な情報を得るために絶対必要なもの。この事典があれば、科学についてひと通りの話がわかるようになる。ニセ科学にだまされないため、というだけでなく、科学の面白さを知るためにも、その手がかりになるこの事典を、ぜひ各家庭に1冊備えていただいて、折々に読んで楽しんでいただけるようにしたいですね」

Q

あなたはいくつ知っていますか?

 私たちが生きていくために、これだけは知っておきたい科学技術用語の一例です。これらは最終選定一歩手前のもの。ここからさらに絞り込まれる予定です。

■生物編

[ア行]
RNA
アオコ
アドレナリン(エピネフリン)
アポトーシス
アミノ酸
アルコール
アレルギー
意思表示カード(ドナーカード)
一塩基多型(SNP)
遺伝
遺伝子
遺伝子組換え
遺伝子治療
遺伝的浮動
移入種
インスリン
ウイルス
運動神経
ATP
ABO式血液型
MRI
オゾン層
[カ行]
外骨格
外来種と在来種
核酸
獲得形質
化石燃料
活性酸素
カビとキノコ
花粉
花粉症

感覚神経
幹細胞/ES細胞
感染症・伝染病
肝臓
間伐
帰化生物
寄生と共生
基礎代謝
擬態
嗅覚
共進化
恐竜
極相林
拒絶反応
魚道
クエン酸回路
クローン
形成層
血液
血小板
血糖値
ゲノム
原核生物
原生動物
恒温動物と変温動物
交感神経と副交感神経
抗原と抗体
光合成
恒常性(ホメオスタシス)
抗生物質
酵素
酵母
紅葉(黄葉)
呼吸
コッホ
固有種
コラーゲン
コレステロール
昆虫
根粒菌
[サ行]
再生医学/再生医療
臍帯血
細胞
細胞小器官/オルガネラ
サンゴ礁
CTスキャン
視覚
師管と導管
自然淘汰
自然発生説
シダとコケ
シナプス
社会性昆虫

従属栄養と独立栄養
受精
春化処理
純系
消化酵素
消費者
照葉樹林
植生
植物
食物繊維
食物網
触覚
進化
真核生物と原核生物
進化論
神経
神経細胞
心臓
腎臓
針葉樹と広葉樹
森林限界
水晶体
膵臓
ステロイド
ストレス
すりこみ(インプリンティング)
制限酵素
生産者
生殖
生殖細胞(卵と精子)
生殖的隔離
誌面の都合で、ほんの一部しか掲載できませんでした。
事典は再来年中に完成する予定です。

TEXT:湊屋一子/PHOTO:松崎泰也(ミューモ)


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JST News 発行日/平成19年5月
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