月田細胞軸プロジェクト(概要)


1.総括責任者

 月田承一郎(京都大学大学院医学研究科分子細胞情報学講座 教授)

2.研究の概要

 我々の体は、多数の細胞が集まって構成されている。しかし、顕微鏡で体中の細胞を眺めてみると、ただ単に細胞が無方向に寄り集まっているのではない。細胞そのものが持つ方向性のことは、漠然と「細胞極性(cell polarity)」と呼ばれ、細胞極性を形成する分子機構の解析は、現代の分子細胞生物学の中核をなす研究分野の一つとなっている。
 細胞が極性を形成する場面は、個体発生における形づくりのいろいろな場面で見られる。例えば、受精卵が分裂していき、その表面の一層が上皮に分化していくが、そのとき、細胞の塊の表面にあるという環境のもとで上皮の極性が形成される。また、発生のそれぞれの過程で、神経細胞から軸索が伸び出して、目標のターゲット細胞を目指すが、これも、その神経細胞の回りの環境のもとで神経細胞に極性が形成される例である。一般に細胞がある刺激のもとに、ある空間的指向性をもって形態形成をするとき、細胞の極性が形成されたという。そして、それぞれの細胞が極性形成(すなわち、細胞内のいろいろな部品をある方向に向かって配置)しようとする時、必ず、それぞれの細胞は基本となる座標軸を自らの中に有している筈である。このすべての細胞に普遍的な座標軸を、ここでは「細胞軸(Cell Axis)」と呼ぶ。
 近年の飛躍的な細胞生物学、分子生物学の進展の結果、細胞軸を形成するために必要な外的刺激、および、細胞軸が決定された後、細胞内反応が起こり、実際の方向性を持った細胞構造が形成されていく過程といった点に関して、多くの情報が得られるようになった。しかし、「細胞軸の実体」という細胞極性研究にとってもっとも本質的な点は解明されていない。
 本研究主題は、形態学的手法から分子生物学的手法までの最新の分子細胞生物学的技術を駆使し、種々の細胞極性形成過程に共通する「細胞軸」の実体を明かにするものである。具体的には、主に哺乳動物の培養上皮細胞の細胞内小器官の動態を探る細胞生物学的なアプローチ、アフリカツメガエルを用いて中心体の分子構築を探る発生生物学的アプローチ、ショウジョウバエを用いた細胞極性形成の異常を手がかりとする遺伝学的アプローチの3方向から解析する。
 この研究は、細胞の形態形成に関する普遍的な分子機構の解明につながるのみならず、個体の形づくりの解明を目指している発生生物学への大きな貢献が期待できる。また、細胞軸を失うことが特徴の一つである細胞の癌化を理解する上での貢献も期待できる。

3.研究期間

 平成8年10月1日から平成13年9月30日まで


This page updated on April 9, 1999

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