横山情報分子プロジェクト(概要)


1.総括責任者

 横山茂之(東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻 教授 理化学研究所 主任研究員)

2.研究の概要

 様々な生命現象は、核酸やタンパク質などの分子が担っている情報が処理される過程と考えることができる。生体分子が担う情報としては、DNAの遺伝情報が一つの典型であり、DNAからmRNAへの転写、そして、mRNAからタンパク質への翻訳によって伝達・変換される。特に、翻訳では、塩基の配列情報が、全く異なるアミノ酸の配列情報へと変換される。このプロセスの鍵は、20種のアミノ酸をそれぞれ三塩基の配列に対応させて暗号化し、tRNAというアダプターを用いて解読する仕組みである。他の典型例は、細胞間、細胞内でのシグナル伝達である。例えば、成長因子などのタンパク質が、細胞表層のレセプターに結合して、シグナルが発生すると、細胞内に伝達され、アダプター、スイッチ、酵素などの分子群の関与により、シグナルの増幅、分岐などの多様な情報処理が行われた結果、細胞の応答が誘導される。
 これらの分子レベルでの情報処理においては、多くの場合、変換された情報は再び何らかの分子(あるいはその存在状態)によって担われ、次々と伝達されていく。情報変換の素過程の一つは、情報をもつ分子と解読する分子との間での分子認識である。その解読結果は、分子の化学構造、立体構造、あるいは、位置の変化として、可逆的あるいは非可逆的に記録され、増幅あるいは伝達される。このような過程での分子認識や立体構造変化の機構は、未だブラックボックスのままである場合がほとんどである。
 本研究主題は、タンパク質や核酸などの情報処理のメカニズムが生体内の複雑な環境の中で分子の高次構造の変化を起点に引き起こされていることに着目し、生体分子の立体構造に人為的な改変を試み、生命現象に関わる情報伝達の分子機構の手掛かりを得るとともに、生体には見られない新たな分子群による情報変換のしくみの可能性を探るものである。具体的には、タンパク質や核酸間の高次構造レベルでの構造認識と変化の解明のアプローチ、タンパク質や核酸の分子改変による機能解明のアプローチ、生体物質とは異なる分子による情報伝達系の構築のアプローチの3方向から研究を進めるものである。
 この研究は、生体分子における情報処理機構を高次構造の立場から物理的、化学的、生物学的に明らかにするもので、生命現象の解明への大きな貢献が期待できるとともに、生体分子が担う情報変換の機能を工学的に応用していく上での端緒になるものと期待される。

3.研究期間

 平成8年10月1日から平成13年9月30日まで


This page updated on April 9, 1999

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