川人学習動態脳プロジェクト(概要)


1.総括責任者

  川人光男(株式会社エイ・ティ・アール人間情報通信研究所 第三研究室長)

2.研究の概要

 脳の神経系の機能つまり情報処理の仕組みを明らかにするためには従来からの伝統的手法、神経生理学、神経解剖学、分子神経生物学など、ハードウェアレベルの研究だけでは不十分であり、これに加えて、アルゴリズムと表現のレベル、さらにその上の計算理論のレベルの研究が必須であることが言われてきた。残念ながらこのような計算論的なアプローチは視覚研究の一部では成功したものの脳研究全体にはいまだ大きなインパクトを与えているとは言い難い。これには2つの大きな理由がある。第1は計算レベルの研究が下の階層から強い制約を受けないと成功し難いにもかかわらず、計算レベルの研究に閉じて孤立していたこと。第2に視覚なら視覚だけに研究が閉じていて、脳の入力から出力までの首尾一貫した研究に至らなかったことである。
 神経回路や脳の数学的モデルの研究は長年にわたり続けられてきたが、それが計算論的神経科学という新しい名前の下に一つの活発な学問領域を形成し、実験的神経科学と同等に扱われるべき重要な方法論であると認識されだしたのは1980年代に入ってのことである。最近になって、脳の中に存在する入力から出力までの多数の並列のモジュールを協調させる枠組みとして、入力から出力と出力から入力へとの2つの情報の流れを統合する理論を構築して、脳の入力から出力までの情報処理を首尾一貫して理解することが可能になってきた。また、大脳基底核など運動制御だけにかかわると思われてきた脳部位も、運動と直接関係のない思考・言語・連想にも重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。
 本研究主題は、計算理論的手法が最も成功した感覚運動変換を基礎として、脳神経系の機能すなわち入力から出力までの情報処理を首尾一貫して理解することにより、意識や思考などの高次脳機能を探求しようとするものである。具体的な研究手法としては、神経生理データの解析、心理・行動実験、計算理論研究、計算機シミュレーション、ヒューマノイドロボット制御実験を有機的に組み合わせて、ハードウェア、アルゴリズムと表現、計算理論の3つのレベルを同時に研究してつなぐものである。
 このような研究は、一部においてでも成果が得られれば、脳の研究の将来を変えるようなパラダイムを生み出すことが期待される。また、このような科学的な成果が、情報処理装置など工学技術にそのまま応用可能であることも明らかになるであろう。

3.研究期間

  平成8年10月1日から平成13年9月30日まで


This page updated on April 9, 1999

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