プラズマを用いた化学的気化加工法(半導体ウェハー用)


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
望まれていた加工変質層を生じない加工法

 半導体デバイスを製造するためには、優れた結晶状態を保持し、かつ、鏡面を持つウェハー(ミラーウェハー)が不可欠であり、ミラーウェハーの製造に当たっては各種の物理的な超精密加工技術が使用されている。
 現在、ウェハーの製造プロセスは、円柱形状の半導体単結晶ブロックをダイヤモンドソー等により切断加工して所定の厚みのウェハーを得ているが、そのままでは厚さの面内分布が悪く、また、表面粗度が大きいため、この後に、(1)面取り、(2)両面ラッピング、(3)化学研磨、(4)ポリッシング(一次、二次)、(5)洗浄など一連の仕上加工を行うことにより、厚さの面内均一性及び表面平滑度の向上を図り、ミラーウェハーを製造している。
 この切断・仕上加工技術は、脆性破壊や塑性変形を基本とするプロセスであるため、 加工表面にマイクロクラック、転位などを含む加工変質層が発生し、これを除去するためには薬品による化学反応を用いた湿式の化学研磨が不可欠である。さらに、各工程間では被加工物表面に付着した砥粒や不純物を取り除くための洗浄を繰り返し行うことから工程数の増加に加え、多量の廃液を処理する必要がある。

(内容)
反応ガスよりラジカルを生成させ、ウェハー表面原子との反応により揮発性物質として気化、除去する新しい加工法

 本新技術は、反応ガスを不活性ガスで希釈した大気圧程度の加工雰囲気において、高周波励起により電極近傍に発生させたプラズマの作用で反応ガスを分解して中性ラジカル(遊離原子)を得、被加工物の表面原子と反応させて揮発性の物質に変換して気化、除去する方法(プラズマCVM(Chemical Vaporization Machining) 、図参照)に関するもので、これを半導体結晶の加工に応用しようとするものである。
 開発では、従来法により切断したシリコンウェハーを用いて仕上加工する装置及び操作法を完成させた。
 すなわち、チャンバー中にヘリウムで希釈したSF6ガスを導入して1気圧程度に保ち、この中で円筒状電極を高速回転させることにより混合ガスを巻き込み、近接して設置した表面粗度の大きいシリコンウェハーの表面に高速の混合ガス流を形成する。この状態で150MHzの高周波電力を電極に加えて発生させたプラズマによりSF6ガスを分解してフッ素ラジカルを得、シリコン表面近傍を定常流として通過させ、表面のシリコン原子を化学反応でSiF4(沸点−94.8℃)等の揮発性物質に変換し、反応生成物をガス流に乗せて除去する。この時、回転している円筒電極とウェハーとの間隔を一定に保持しながらウェハーを横方向に揺動させることにより表面の仕上加工を行い、ミラーウェハーを得る。なお、加工に使用した混合ガスは、ガス中に含まれる反応生成物を化学吸着により除去した後、減少分のガスを補給しながら再循環させる。

(効果)
シリコンのみならず種々の材料を対象とする新しい加工法

 本新技術により仕上加工を行った8インチシリコンウェハーは、加工前の性状により加工時間は異なるものの、2.5分〜十数分で市販のミラーウェハー並の表面粗度が得られ、LTV の平均値は0.29μmであった。
 本新技術は、これまでの機械的な加工とは異なり、被加工物に外力を加えない化学的な加工方法であるため、加工変質層の発生がみられないことからこれを除去するための化学研磨等の工程は不要となる。このため、本新技術は、シリコンのみならず、 表面に加工歪や微小な割れの残留を嫌う材料、あるいは、機械加工が困難な炭化珪素、 窒化珪素、窒化チタン、タングステン、モリブデンなど種々の材料を対象とすることができる新しい加工法として普及が期待される。

用語解説:LTV(Local Thickness Variation) ・・単位面(20mm ×20mm) 内のウェハーの厚さの最大値と最小値の差。


This page updated on April 14, 1999

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