生分解性プラスチックフィルム(キトサン−セルロース−デンプン系)の製造技術


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
安全で完全に分解するプラスチックフィルムの開発要望

 環境の保全が大きな社会的課題となる中、プラスチック廃棄物に関する諸問題の有力な解決手段として、又、農業や医療・衛生材料等の分野では、所定の期間初期物性を維持した後、容易に分解消失するプラスチックフィルムの開発に大きな期待が寄せられている。
 この種のプラスチックとして、従来より水素細菌が産生するポリエステル(ポリヒドロキシブチレートなどの共重合体)が知られており、一部のシャンプーボトル等に実用化されている。この材料は微生物由来であるため、生分解性や安全性は良好であるが極めて高価であるため、需要の拡大にはつながっていない。また、最近各種の脂肪族ポリエステルを中心に幾つかの化学合成による生分解性プラスチックが開発されたが、一般的に天然系や微生物由来のものと比較すると環境中での生分解速度が遅い、分解過程での安全性についても完全に確認されているとは言い難い、などの指摘があった。

(内容)
天然物質のキトサン、セルロース及びデンプンから成る生分解性プラスチックフィルム

 本新技術は、動植物由来の物質は自然界で分解し、その分解生成物も環境を汚染しないという自然界の物質循環に着目し、天然多糖類のキトサンとセルロース及び第3成分のデンプン(いずれも動植物由来の物質)を用いて、水溶液キャスティング法によりフィルムを連続して製造しようとするものである。
 キトサンは昆虫やエビ、カニなどの外殻に含まれるキチンから誘導した多糖類であり、またセルロースも植物の細胞壁の主成分を成す多糖類である。いずれの原料も天然高分子であるため、土壌や海水中に普遍的に存在する微生物によって、自然環境の生態系に悪影響を及ぼすことなく完全に分解される。
 本生分解性プラスチックフィルムは、キトサンとセルロースの複合化反応によって両者を架橋させることにより、乾燥状態のみならず湿潤状態においても優れた強度が発揮される。更に添加するデンプンは、キトサンとセルロースの間に入り込み、フィルムに伸び特性、吸水性及び平滑性を与えるとともに、製膜性を向上させる効果がある。分解時間は、複合化の反応温度、キトサンとセルロースの配合比、添加するデンプン量などにより制御することが可能である。
 製造は次の工程により行われる。

(1)原液の調製 原料溶解タンク内にキトサン、セルロース、デンプン、可塑剤及び水を所定量投入し、キトサン膨潤後酢酸を添加して室温にてキトサンを溶解させる。
(2)流延 膜厚が一定となるように粘度をコントロールしながら、原液を乾燥ドラムに流延する。
(3)製膜乾燥 加熱によりキトサンとセルロースの複合化反応を促進するとともに酢酸の除去を促進し、乾燥フィルムを得る。
(4)巻取り 乾燥フィルムは伸度が低いため、フィルム水分とテンションをコントロールしながら連続して巻取る。

(効果)
自然界の物質循環に則ったプラスチックフィルムの供給

本新技術による生分解性プラスチックフィルムは、次の特徴を有する。

(1) 土壌中や海水中に普遍的に存在する微生物により分解され、分解生成物が環境を汚染する恐れがない。
(2) 材料設計により分解時間の制御が可能。
(3) 水溶液キャスティング法により1.2m幅のフィルムを連続して製膜可能。

従って、本生分解性プラスチックフィルムは以下のような用途が期待される。

(1) 農業用途: 播種テープ・フィルムなど
(2) 漁業用途: 海苔養殖用胞子袋など


This page updated on April 14, 1999

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