本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。
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機械の駆動部品、自動車等の軽量化に向け優れた軽合金の開発の要望 |
昭和40年後半、増本健氏が液体急冷法を用いて作製したパラジウム・シリコン合金薄帯において強度と靱性が著しく向上することを見出して以来、原子が無秩序に配列した非晶質合金が、多くの合金系において研究開発されるようになり、特に鉄、コバルトを主体とする非晶質合金が磁気ヘッドやトランス材料などの軟磁性材料等に実用化されている。
一方、自動車やロボット等の分野においては、軽量でしかも強度に優れた軽合金の開発が望まれ、アルミニウムやマグネシウム合金の非晶質化が試みられたが、これらの合金は結晶化温度が低いため安定な非晶質相が得られにくいと言われてきた。
非晶質アルミニウム粉末から、ナノ結晶の高強度アルミニウム合金を製造 |
本新技術は、アルミニウムに希土類元素と遷移金属元素を加えた非晶質合金粉末を液体噴霧法により作製し、この粉末を結晶化温度近傍で加圧しながら押出加工を行い、ナノメートルオーダーの結晶を均一に析出させた高強度アルミニウム合金を製造するものである。
アルミニウムに遷移金属元素や希土類元素を添加すると、これらの原子はアルミニウム中での拡散が遅く、結晶化が進行しにくくなる。そこで、この組成の合金を溶融して、高圧不活性ガスにより噴霧、急冷凝固させることでミクロンオーダーの非晶質合金粉末を作製する。この粉末を押出機などを用いて成形加工を行うことにより棒状の形状とする。この際に押出時の温度を結晶化温度近傍にすることにより、ナノメートルオーダーの微細な結晶(ナノ結晶)が均一に析出する。これは、通常の合金では元々存在する結晶欠陥や粒界に結晶の核が析出して金属間化合物を形成するのに対し、本新技術では粒界を持たない均質な非晶質相を母体として結晶化を図るため、均一に結晶の核が発生するからと考えられている。
以下に製造プロセスの具体例を示す。
(1) | アルミニウム88.5%に、遷移金属元素(ニッケル、ジルコニウム)8.5%、希土類元素(イットリウム、セリウム等)3%を添加した組成に調整し、溶融後、液体噴霧法を用いてミクロンオーダーの粉末からなる非晶質合金を作製する。 |
(2) | この粉末合金を容器に充填し、真空引きしながら加熱して脱ガス処理を行い密封した後、温度約330℃、圧力約1GPaの加工条件下で押出加工を行い、棒材を作製する。 |
(3) | その棒材に対し鍛造や切削などの2次加工を加え成形体にする。 |
こうして製造したナノ結晶のアルミニウム合金は、内部組織が微細であるため、優れた機械的特性を有しており(表1)、0.2秒程度の短時間で超塑性(注3)による成形加工も可能である。
機械的強度に優れた軽量部材の実現 |
本新技術によるアルミニウム合金は
(1) | 常温下で超々ジュラルミン以上の、200℃で耐熱アルミニウム合金以上の強度を持つ。 |
(2) | チタン合金や鋼に匹敵する重量比強度を持つ。 |
(3) | 短時間で超塑性による成形加工が可能である。 |
等の特徴を持つため、
1.機械部材
(1) | 産業機械の駆動部品(ギヤ、シリンダー、軸受け、ローター等) |
(2) | 自動車用部品(ギヤ、ドライブシャフト、カムシャフト、バルブリフター等) |
2.構造部材
(1) | 航空機、自動車の構造材 |
(2) | ビル、住宅用のサッシ等の建築用部材 |
等に広く利用することが期待される。
(注1)希土類元素 : | スカンジウム、イットリウムやランタン、セリウム等のランタノイド のことを言う。産出量が少なく酸化物が泥状なためこの名前を持つ。 |
(注2)遷移金属元素: | チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコ ニウム等の元素のことを言う。種々の酸化数を取りうるものが多く、化合物には有色のものが多い。なお、アルミニウム、スズ、鉛、ビスマス等は遷移元素に含まれない。 |
(注3)超塑性 : | 金属が変形する性質を塑性と言うが、ある温度条件下で100%〜1000%の伸びを示す場合を超塑性という。通常、結晶粒径が細かいほど超塑性を示しやすく、変形速度が速くなることが知られている。この現象を示す合金は成形がしやすいため複雑な形状の物が作りやすい。 |
超々ジェラルミン |
耐熱Al合金 |
本新技術 |
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引張強度(MPa) |
常温 |
580 |
480 |
950 |
200 ℃ |
300 |
400 |
520 |
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ヤング率(GPa,常温) |
73.5 |
76.5 |
100 |
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熱膨張率(10-6×℃-1,180℃) |
25.0 |
23.0 |
18.6 |
表1 従来のアルミニウム合金との比較
This page updated on April 14, 1999
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