酸化物超電導材料(Bi系超電導線)の製造技術


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
液体窒素温度で使用可能な酸化物超電導線の製造法が望まれていた

 転移温度(臨界温度)で電気抵抗がゼロになる超電導材料は、電気抵抗による損失なしに電流を流すことができ、また、強力な磁場の発生が可能なことから、送電線、リニアモーターカー、発電機等へ応用できるものと期待されている。しかし、金属系の超電導材料では臨界温度が−263℃付近であり液体ヘリウム(約−269℃)による冷却を必要とする。液体ヘリウムは高価で、取扱いに専門的な知識を必要とすることから、その応用はMRI(医療用磁気共鳴画像装置)の磁場発生用マグネット等に限られていた。
 昭和61年に酸化物超電導材料が発見され、さらに昭和63年には、科学技術庁が推進する超電導材料研究マルチコアプロジェクトの中で、液体窒素温度(約−196℃)よりも高い臨界温度−183℃〜−163℃をもつビスマス系酸化物超電導材料が発見され、超電導技術の新たな展開の可能性が開かれた。しかし、酸化物超電導材料は、層状の結晶構造に基づく異方性の強いセラミックスであり、結晶粒度、結晶粒界や結晶の配向性及び微細構造等が超電導特性(臨界温度、臨界電流密度、臨界磁場等)と密接な関係をもつことから、精緻なプロセス技術の開発が望まれていた。また、超電導線の実用化のためには、ある程度の長さの線材が必要なため、長尺で臨界電流密度の高い超電導線の製造法の開発が望まれていた。

(内容)
ビスマス系複合酸化物粉末を銀パイプに詰め、塑性加工してテープ状線材とし、これを焼結して長尺の超電導線材を得る

 本新技術は、ビスマス系の高温相(臨界温度:Tc 〜-163℃で、原子組成比がおよそビスマス:ストロンチウム:カルシウム:銅=2:2:2:3のもの)を利用して酸化物超電導材料を作製するプロセスにおいて、塑性加工(伸線、圧延等)や焼結の工程を精密に制御することにより、緻密さや結晶配向性を向上させ、超電導線に要求される特性を得るものである。
 本新技術によるビスマス系酸化物超電導線の製造プロセスを以下に示す。

(1) 原材料であるビスマス、銅等の酸化物、ストロンチウム、カルシウムの炭酸塩のそれぞれの粉体を秤量して混合し、仮焼結及び粉砕を繰り返し、複合酸化物粉末を作製する。これを、乾燥雰囲気で銀パイプに充填する。
(2) 銀パイプを伸線加工後複数本に切りわけ、再度銀パイプに嵌合(パイプ嵌合法)し、伸線加工後圧延してテープ状にする。これらの工程で複合酸化物粉末の密度を高める。
(3) テープ線材を800℃以上の温度で焼結(一次焼結)して複合酸化物粉末を高温相の結晶に相変態させる。
(4) テープ線材を取り出し、再度圧延加工することにより結晶粒を配向させる。これを焼結(二次焼結)し、結晶粒同士を結合させることにより、超電導電流を流れやすくする。このようにして、幅3〜3.5mm 、厚さ0.22〜0.25mm、長さ1,000m以上、臨界電流密度16,000A/cm2 以上の超電導線を製作する。酸化物超電導線はこれまで1,000m以上の長さで9,000A/cm2 を越える臨界電流密度を持つものはなく、本超電導線は世界最高の性能を持っている。
(効果)
電力ケーブル、マグネット等への応用

 本新技術による酸化物超電導線は、(1)電力ケーブル等の用途に対して1,000m以上と実用的な長さがあり、(2)線材の断面積あたりの電流密度が液体窒素温度における銅の3倍を上回り、かつ、損失なしに電流を流すことができるため、超電導応用機器を小型化、省エネルギー化することができる、などの特徴をもつことから、液体窒素温度で使用する大容量電力ケーブル、マグネット用コイル線や金属系超電導マグネット用パワーリードなどの分野で利用されることが期待される。また、本超電導線は、さらに低温にした場合においても金属系超電導材より高い臨界磁場を持つことが明らかにされており、金属系超電導材ではできなかった高磁場を発生させることが可能なことから、強磁場利用技術の発展に寄与することが期待される。


This page updated on April 14, 1999

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