ハイドロゲル剤型創傷被覆材


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
望まれる剥がれやすく創傷にやさしい創傷被覆材

 創傷被覆材は、褥瘡や皮膚潰瘍、火傷等の創傷の治療に用いられている。これは、創傷面を保護しつつ創傷面からの滲出液を吸収し、表皮細胞の移動を促進する湿潤環境を形成して自然治癒を促進することを目的としている。
 従来主に市販されている創傷被覆材は、ペクチンやゼラチン、カルボキシメチルセルロース等のハイドロコロイド粒子を成分としたハイドロコロイド剤型のものであった。しかしこの創傷被覆材は、(1)粒子間が架橋されず分散しているため、剥がす際に創傷面に被覆材が残留しやすい、(2)透明性がなく治療観察をするには剥がさなければならない等、改良の要望も多かった。

(内容)
電子線照射と熱処理の組合わせにより創傷被覆材に適したハイドロゲルを作製

 ハイドロゲルは、親水性高分子鎖間が架橋されて多量の水を保持し、吸収性に優れる材料であり、特にポリビニルアルコール(以下PVAと称す)のハイドロゲルは生体親和性が良いことから生体・医用材料への応用が期待されている。本新技術は、PVAハイドロゲルからなる創傷被覆材に関するものである。
 PVAハイドロゲルは、濃厚水溶液の凍結・解凍の繰り返しによる結晶化、アルデヒド等の架橋剤を用いる方法や濃厚水溶液への放射線照射による高分子鎖間の共有結合の導入等により作製が可能である。しかし、これらの方法により作製されたPVAハイドロゲルは、煮沸等の滅菌操作に耐えうる耐熱性や機械的強度を持ち合わせていない、化学試薬の使用が生体組織との好ましくない反応を招く恐れがある等、必ずしも創傷被覆材に適したものではなかった。
 本研究者らは、PVA水溶液からフィルムを作成し、そのフィルムに熱処理を施して分子配向による部分結晶化を促し、後に電子線照射により非結晶部分に共有結合の導入を行ったところ、耐熱性や機械的強度、透明性に優れ、創傷被覆材に適したPVAハイドロゲルが作製できることを見いだした。また、このPVAハイドロゲルは滅菌ガーゼと比較して、創傷面から容易に剥がすことが できかつ創傷の治癒が早いことを、動物実験にて確認した。

(効果)
期待される褥瘡や皮膚潰瘍、火傷等の創傷の治療への適用

本新技術は、次のような特徴を持つ。

(1) 煮沸等滅菌操作に耐えうる耐熱性や機械的強度を有し、透明性に優れたハイドロゲルの作製が可能である。
(2) 架橋剤を使用しないため、皮膚に対する安全性に優れる。
(3) フィルム状で調製が行えるので、連続生産が可能であり、量産が容易である。

そして、本新技術により得られる創傷被覆材は、

(1)剥離しやすく創傷面に残留しない。
(2)透明性に優れ、剥離することなく直接治療観察を行うことが可能である。

などの特徴を有し、褥瘡や皮膚潰瘍、火傷等の治療に利用されるものと期待される。

〔注釈〕

ハイドロゲル   : 高分子が化学結合によって網目状構造をとり、網目に多量の水を保有した物質をさす。
ハイドロコロイド : 高分子などの微小な粒子が化学結合を介さず凝集し、各粒子の間に多量の水を保有した物質をさす。



This page updated on April 23, 1999

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