超音速自由噴流による表面電離型検出器


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
環境汚染の未然防止のために環境中の化学物質の確認・同定が重要であるが、一般的に低濃度であるために高い感度を持つ測定装置が望まれている。

 科学の進歩に伴い、利用される化学物質の種類は増えつづけており、その利用方法も複雑になっている。この様な化学物質はさまざまな形で使用される際に大気や河川などの環境中に排出されることがあり、その種類や量を正確に把握することが環境汚染を未然に防止するために重要である。大気中に存在する化学物質の確認・同定には従来よりガスクロマトグラフやガスクロマトグラフ質量分析計がよく用いられているが、一般的に環境中に排出される化学物質の濃度は非常に低く、必ずしも十分な感度を持ってはいない。採取する試料の量を増やして高倍率の濃縮を行う方法も採られているが、作業の煩雑化や器具からの不純物の混合などの不都合な問題を生じるので抜本的な解決策とは成っておらず、より高い感度を持つ検出器の出現が望まれている。

(内容)
環境中の化学物質の確認・同定によく使われるガスクロマトグラフやガスクロマトグラフ質量分析計の検出感度を向上させる技術である。検出すべき試料を高速にし固体表面に衝突させ、高い効率でイオン化することを特徴とする。

 ガスクロマトグラフは試料をその成分ごとに分離する部分と分離された成分を検出する部分とで構成される。試料を各成分ごとに分離する作業はカラムと呼ばれるチューブによって行われる。このチューブの中に適当な充てん物や毛細管などを入れ、チューブの一端からヘリウムガスなどの気体と共に試料を流し込む。すると他端から試料が各成分ごとに順番に放出される。各成分に分離された試料分子は検出器によって検出されるが、高感度の検出器としては試料分子をイオン化し、そのイオン電流を測定する方式がよく採られる。この方式ではイオン化の効率が高ければ高いほど検出感度が向上するが、本新技術ではカラムによって分離された試料分子を高速にし、白金などの固体表面に衝突させることで高い効率で試料分子をイオン化し、高い検出感度を実現するものである。カラムの先端には微小径(直径数十μm)のノズルが取り付けられており、そこで試料分子を温め分子の運動を活発にし真空中に放出する事により、試料分子がキャリアガスにつられて勢い良くノズルから噴出し超音速自由噴流となり、高い運動エネルギー(〜10eV)を得る。その試料分子を、高温に保たれた固体表面(白金、レニウムなど)に接触させると、運動エネルギーが電子エネルギーに移行し試料分子のイオン化に利用されるので、高い効率でイオン化されるようになる。その後、イオン電流を測定することにより試料分子の検出を行う。また、イオンに適当な磁場や電場をかけることで質量分析も可能となることからガスクロマトグラフのあとに質量分析計を付けたガスクロマトグラフ質量分析計にも適応する。
 本新技術では、有機化合物全般に対して高い効率でイオン化することが可能であるために汎用性の高いガスクロマトグラフ用表面電離型検出器およびガスクロマトグラフ質量分析計用表面電離型イオン源を実現する。また、固体表面の材質を適当に選択することにより特定の種類の分子のみを選択的に検出することが可能である。

(効果)
環境中に存在する非常に濃度の低い化学物質を確認・同定することが可能。

 本新技術による表面電離型検出器はガスクロマトグラフやガスクロマトグラフ質量分析計に用いられることによりこれまでにない超高感度測定が可能になることから、

1 大気、水中などの環境に存在する有機化合物の高感度測定。
2 血液や体液に僅かに含まれる薬物のモニタリング。
3 燃焼ガスなどに含まれる多環芳香族化合物などの発がん性の疑いのある化合物の微量測定。

などに広く利用されることが期待される。


This page updated on April 30, 1999

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