微生物由来凝集剤の製造技術


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
望まれる地球環境に優しい凝集・脱色剤

 染物工場等で発生する色素等を含む排水は、通常の排水処理後、大量の水で薄めて河川へ放流する等により処分されている。最近になっていくつかの自治体で工場排水の着色度について規制する動きがあり、和歌山市が全国に先がけて平成6年4月より着色度を規制する条例を施行し始めたほか、他の自治体でも検討され始めている。
 この規制に対応するために、凝集剤(高分子凝集剤、無機凝集剤、高分子イオン吸着剤)などを用いて色素等を凝集・回収し焼却処分することが始められている。しかし、これまでの凝集剤は、(1)合成高分子を材料としており凝集剤等が残留すると環境を悪化する恐れがある。(2)単一の分子種を吸着する構造であるため1種類で染物工場で使われる多種類の色素を凝集することが難しい。(3)複雑なプロセスを経て凝集を行うため、凝集剤の添加量を増量しても完全に凝集を行うことが難しい、などの問題があった。

(内容)
微生物の代謝物質を用いることで簡単なプロセスで効率よく排水中の色素等を凝集・脱色

 本新技術は、土壌微生物の1種であるロードコッカス・エリスロポレス属の新しい菌株が産生する代謝物質(糖タンパク、多糖類、脂質等)を利用した凝集剤を製造し水溶性の色素、食品工場の排水に含まれる種々の化合物を凝集し、排水を脱色するものである。本新技術による凝集剤は、溶解からコロイド状態までの広範囲な状態の懸濁物質を凝集することができる。これは本凝集剤が1〜10μmの不溶性の菌体の核のまわりに菌が産生する色素等を吸着する効果のある活性基(NH3+ ,COO-等) を有する糖タンパクや多糖類等の代謝物質がとりまく構造をしているため、一種類の凝集剤で多種類の反応性色素等を凝集することが可能になると考えられている。
 本菌体の培養では、まず濃度(菌体等) の低い状態で培養(培養第1工程)して菌体の増殖と菌体を凝集する効果を持つ物質の産生を行なわせ、次いで、菌体を濃縮した後、濃度(菌体等)の高い状態で培養(培養第2工程)して代謝物質を積極的に産生させることで効率よく微生物由来凝集剤の生産を行う(図1)。また、菌体の増殖時に、培地中に増加する菌の生産を阻害する微量金属(鉄、亜鉛等)が蓄積されるようになるため、電気透析により生育阻害物質を除去することで、生産効率を大きく向上させることを可能とした。

図2 培養装置構成

(効果)
期待される染色工場の排水処理

本新技術による微生物由来凝集剤は次のような特徴を持つ。 

1 環境を悪化させる恐れのない凝集剤である。
2 様々な色素等の化合物を含む排水や食品排水、発酵残渣等の処理が可能である。
3 簡単なプロセスで凝集ができ凝集効果が高いので経済性が高い。
4 食品排水、発酵残渣を処理した場合その凝集物は肥料等に用いることが可能となる。

従って

1 染色工場、顔料製造工場等の排水処理
2 食品工場、醸造工場等の排水処理
3 製紙工場等の黒液処理

の凝集剤としての利用が期待される。


This page updated on April 30, 1999

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