腹腔鏡下臓器摘出手術装置


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
患者の負担が小さい手術装置の開発が要請されている。

 近年、手術により患者が受ける負担をできるだけ軽減するため、開腹手術に代わって、腹腔鏡下手術が胆のうの摘出手術を中心に急速に普及しつつある。腹腔鏡下手術は、腹壁に設けた小さな孔を通じてCCDカメラを体内に挿入し、画像をビデオモニターに映し出し、医師はモニターを見ながら、別の孔から挿入したメス等を用いて、病変部の切除・摘出を行うものである。この手術法は開腹手術に比べ筋肉等への損傷が非常に小さいため、手術後の痛みが少ない、回復が早く入院期間を短縮できる、傷痕が小さく患者の心理的な負担も小さくできるなどの特徴をもっている。このため消化器系、泌尿器系等多くの医療領域において普及しつつある。
 しかしながら、腎臓癌などでは臓器が比較的大きいため、体外へ摘出することが困難である。また強いて摘出するためには臓器を細かく破砕することが必要となるが、腫瘍細胞が体腔内に広がることを防ぐため、対象臓器を袋状の容器の内部に移し、スクリューコンベアなどにより組織を砕断・吸引せざるをえない。この方法では、摘出した臓器の癌がどこまで進行しているかといった病理学的な診断を下すことが困難であることなどから腹腔鏡下手術の適用が妨げられていた。

(内容)
腎臓など比較的大きな臓器の摘出手術にも腹腔鏡下手術が適用できる。

 本新技術は、腹腔鏡、臓器細切装置、及び鉗子等が挿入可能な臓器収納容器内に挿入し、この中で摘出すべき臓器を切片状に切った後、切片を破壊することなく体外へ取り出す腹腔鏡下手術装置で、腎臓癌などへの腹腔鏡下手術を適用しようとするものである。
 本装置の構成は次のとおりである。

(1) 摘出臓器収納容器
周辺組織から摘出した臓器を収納する機能をもち、容器に付加した複数の操作口より腹腔鏡等を挿入し腫瘍組織の細切と採取を可能にしている。外套管より腹腔内へ挿入可能な柔軟性、組織細切時の機械的、電気的衝撃に耐える強度、腫瘍細胞を漏出しない機密性が必要となる。材質は人体に対する安全性、蒸気滅菌に耐える耐熱性等に優れたシリコン系の合成樹脂を用い、臓器を収容するための開閉自在の大開口部と、腹腔鏡並びに鉗子を通すための複数のガイドを備えた小開口部を備えている。合成樹脂には蛍光剤を配合するとともに、ガイド部を着色することにより、腹腔鏡により観察し易くし、腹腔内での操作を確実かつ容易になるよう配慮している。
(2) 摘出臓器細切装置
遊離した臓器を薄く切る機能を持つ。金属製ワイヤーを、ガイドパイプ内に閉じ込めた状態で外套管から挿入し、摘出臓器収納容器の内部でループを開き使用する。この際大きな変形が加わるため、ワイヤーの素材としては形状記憶合金を用いることにより、体内で速やかに所定の形状に開くことを可能にしている。また、機械的な切断および電気メスの機能を兼ねる。なお、手術時間の短縮を図るため、複数のループからなり、一回の操作で臓器全体を細切する装置を状況に応じて併用する。
(3) 鉗子
摘出臓器の把持に使用する。組織細切器を電気メスとして使用する際には対極の電極として使用する。
(4) 吸引搬出装置
細切した臓器の組織を損傷すること無く体外へ取り出す装置で、診断に必要な切片を吸引し、傷つけること無く体外へ搬出した後、残りの切片はポンプで効率的に取り出す。本装置は、バッテリー駆動式とし、操作の妨げになるコード類を廃している。
(効果)
腹腔鏡下手術の適用出来る疾患が増え、患者の負担が軽減

  本新技術は、

(1) 開腹手術と比較して、患者への侵襲 (傷つけること) が少ない。
(2) 腫瘍の進展様式、進展度等の診断が可能な摘出臓器の切片が得られる。
(3) 医師の直視下で組織の細切を行うことが出来る。

などの特徴をもつため、腎臓癌や副腎腫瘍だけでなく、子宮筋腫などで大きな組織摘出が必要な手術にも腹腔鏡下手術が適用できるようになることが期待される。


This page updated on April 30, 1999

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