判断回路内蔵型半導体加速度センサの製造技術


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
安全性向上や電子制御化対応のため小型・高機能の加速度センサへの要求が増大

 自動車やロボット、各種精密機器の電子化に伴って多種多様な監視・判断・制御を同時に行うことが必要となっている。また、自動車では安全性や操縦安定性等の追求のためエアバッグやアンチスキッドブレーキ、電子サスペンション制御の開発が進み、このために小型高精度で安価な加速度センサが求められている。
 従来の、コンピュータで全ての監視・判断・制御を行う集中処理方式では、コンピュータの能力が不足する、配線の複雑化により信頼性・経済性が低下する、メインテナンスも困難となる等の問題があった。このため、分散処理の要求が強まっており、センサチップ自体にも測定結果に基づく制御・判断等の機能を持たせる知能化が望まれていた。
 しかし、従来使用されている機械式加速度センサは知能化が困難な上、製造・調整・保守に熟練を要するものであり、小型化にも限界があった。

(内容)
CMOSインバータ(注1)を高度に活用し判断回路等を検出部と一体化

 新技術によるセンサは加速度の検出部と、増幅・AD変換・判断を行う信号処理部を数ミリ角の同一チップ上に実現するものである。このセンサでは、歪みの大きさに応じてCMOSインバータの論理しきい値電圧が変化することを利用して加速度を検出し、信号処理部に複数のCMOSインバータを組み合わせた回路を用いることで、設定条件等との比較判断をセンサ自体が行う等の高度な機能を実現している。
 新技術による加速度センサは検出部と信号処理部から構成される。 (写真

(1) 検出部はおもり、それを支える支持部、歪みを生じるダイアフラムから成り、ダイアフラムにはCMOSインバータが形成されている。加速度が加わるとおもりが変位し、ダイアフラムに歪が生じる。この歪によってCMOSインバータの論理しきい値電圧(注2)が変化するので、これを電圧変化として取り出す。
(2) 従来の加速度センサでは信号処理部が無く、測定データは外部のコンピュータまで伝達された上で信号処理されていた。本新技術による半導体加速度センサは検出部と信号処理部が同一チップ上に形成されており、CMOSインバータの特性を高度に活用することで増幅・AD変換・判断の機能を実現している。この結果、外部のコンピュータを使用することなくエンジンからの電磁ノイズ等による信号劣化を受けずに信号処理を行うことができるほか、信号処理部では原理的に論理しきい値電圧の相対的な差を利用しており、論理しきい値電圧の絶対値にはほとんど影響されないため、従来の加速度センサよりも、製造毎のバラツキや、温度変化による測定に対する影響をかなり軽減化でき、製造後の基準点の較正も容易となる。
(効果)
小型・高精度で信頼性に優れた加速度センサの実現

  本新技術によって簡素な回路構成で

1 小型・高信頼性の加速度センサで、種々の用途に応じた特性設定が可能
2 別のコンピュータを介さずセンサ単体で自律的判断が可能
3 検出部直近で増幅・AD変換を行うため、ノイズ、温度変化等の影響を受けにくい
4 半導体加工プロセスによって製作でき、量産性・再現性が高い

ことから、

1 自動車のエアバッグ制御、アンチスキッドブレーキ制御、電子サスペンション制御
2 ロボットの動作制御
3 精密機器等輸送時の加速度履歴記録
4 産業用精密機器の制振

等に広く利用されることが期待される。

 
(注1) CMOSインバータ
 p型MOSトランジスタとn型MOSトランジスタで構成された回路。入力デジタル信号が0(LOW)なら1(HIGH)を、1(HIGH)なら0(LOW) と入力に対して逆転した出力をする機能を持つ。
(注2) 論理しきい値
 入力信号が0(LOW) か1(HIGH)かを判断する基準となる電圧値でCMOSインバータ入出力伝達特性で入力電圧と出力電圧とが等しくなる電圧値で定義される。CMOSインバータのp型およびn型MOSトランジスタの幅や長さを変えることで所要の論理しきい値を得ることが出来る。また、一般に温度によっても論理しきい値は変動する。


This page updated on May 6, 1999

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