電子線照射による高耐熱性炭化けい素繊維の製造技術


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
酸素の混入が少ない炭化けい素繊維の製造法が望まれていた

 セラミックスの特徴である耐熱性、硬さ、耐磨耗性、耐食性などの優れた機能と、無機繊維の持つしなやかさと高強度との両機能を兼ね備えた繊維強化セラミックス基複合材は、航空・宇宙、エネルギーなど厳しい環境条件で利用できる耐熱性複合材の中心になるものと考えられている。なかでも、発電用高温ガスタービンや航空機ジェットエンジンでは、燃焼温度を上昇させることができれば、効率の向上を図れることから、耐熱温度の高い材料の出現に対する期待が大きい。しかし、無機繊維の耐熱温度は、最も優れている炭化けい素でも1200℃にとどまっており、セラミックス基複合材の耐熱性は無機繊維により制約されている。
 炭化けい素繊維は、原料のポリカルボシランを溶融紡糸し、数百本束ねて高温で焼成して製造している。しかし、ポリカルボシランは融点が低く、200℃程度で軟化して、束ねたフィラメントが融着し、繊維形状が維持できなくなるため、焼成を行う前に空気中で加熱・酸化し、ポリカルボシラン分子を架橋させて、融着を防止する不融化処理を行っていた。その結果、炭化けい素繊維には12wt%程度の酸素が結合しており、1200℃以上の高温では繊維中の炭素と反応して一酸化炭素となって離脱するために繊維の強度が著しく低下していた。
 このため、酸素を含まない炭化けい素繊維の製造が可能となれば、耐熱性などの物性の向上したものが出現すると期待されていた。

(内容)
紡糸したポリカルボシランに電子線を照射して架橋することにより不融化処理を行い、これを焼成して炭化けい素繊維を得る

 本新技術は、紡糸したポリカルボシランの不融化処理を、不活性ガス雰囲気で電子線を照射してポリカルボシラン分子を架橋する方法により行い、酸素含有量が少なく、耐熱性と弾性率が向上した炭化けい素繊維を製造するものである。
 電子線照射によるポリカルボシランの不融化機構は、電子線照射により、ポリカルボシランのけい素−水素や炭素−水素の結合が切断されてラジカルが生成され、このラジカルが互いに結合してポリカルボシラン分子が架橋することによるものである。
 本新技術による高耐熱性炭化けい素繊維は、不活性ガス雰囲気で、次の工程により製造される。

(1) 溶融・紡糸
 原料のポリカルボシランを溶融し、小孔から吐出させて直径15〜20μmのフィラメントに紡糸し、数百本束ねて1本にまとめ、ボビンに巻き取る。
(2) 不融化処理  
 ポリカルボシランに電子線を均一に照射して架橋させ、不融化する。
(3) 安定化処理  
 不融化処理で架橋せずに残ったラジカルを、熱処理して消滅させ、ポリカルボシランの安定化を図る。
(4) 一次焼成  
 ポリカルボシランを1000℃以上で焼成して、炭化けい素とする。
(5) 二次焼成  
 炭化けい素繊維に張力を付加しながら、1500℃以上で焼成し、繊維の縮れなどを除去するなどして高強度化を図る。
(効果)
従来より500℃高い1700℃の耐熱性が得られる

 本新技術による高耐熱性炭化けい素繊維は、酸素含有量が0.5wt %程度で従来の炭化けい素繊維より500℃高い1700℃の耐熱性と、2.8GPa(280s/o) の引張強度、270GPa(27t/o)の引張弾性率を有することから、セラミックス用の強化繊維として使用され、その複合材は発電用高温ガスタービン、航空機ジェットエンジン、ロケットエンジン、核融合炉壁材などに利用が期待される。さらに、これまでは製造温度が高いために製造することができなかった新しい種類のセラミックス複合材の実現に寄与することが期待される。


用語解説

1)電子線照射による不融化:ポリカルボシランが電子線照射により不融化する様子と、焼成により炭化ケイ素となる様子を示す。




表 各種耐熱繊維の特性比較
項目 新技術による
SiC繊維
従来技術による
SiC繊維
アルミナ系繊維

密度
(g/cm3)

2.8

2.55

2.8〜4.2

引張強度(常温)
(GPa)

2.8

3.0

1.4〜2.45

引張弾性率(常温)
(GPa)

270

220

150〜385

1200℃-1時間保持後の引張強度
(GPa)

2.8

2.0

-

1700℃-1時間保持後の引張強度
(GPa)

2.0

-

-


※(-)測定不能




写真1 高温環境試験(2000℃-1時間)後の炭化けい素繊維の電子顕微鏡写真

写真2 本新技術による炭化けい素繊維を使用したセラミックス基複合材の例


This page updated on May 6, 1999

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