電子蓄積リング型X線発生装置


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
 望まれる小規模でかつ高輝度のX線発生装置

 X線は、その透過力や、結晶格子による回折現象、原子内の電子の励起能力、などの性質により、物質の分析評価や医療診断に広く利用されている。近年、物質分析においては、微量試料や微小領域の蛍光X線分析、短時間で高精度のX線回折像を得ることを要するタンパク質の構造解析や高精度のX線吸収分光計測を用いた局所構造の解析などで高輝度X線の利用が進んでいる。また、医療分野では、造影剤の静脈注射と硬X線照射による低侵襲の冠状動脈造影、産業分野では高集積回路や微小部品の形成のためのX線露光などの技術が開発されつつあり、高輝度X線源の重要性が増している。
 従来、実験室規模で使用が可能なX線発生装置として電子ビームを固体ターゲット(陽極あるいは対陰極)に衝突させてX線を発生させるものが市販されているが、衝突電子が減速し陽極に吸収されるまでのエネルギーの大部分がターゲットの発熱に費やされる上に、ターゲット外への放射は大きな広がり角で発散されるため、これを高輝度X線源とすることは困難であった。また、電子蓄積リングから得られる放射光は、高い輝度に加え、広い連続スペクトル、指向性をもつなどの特徴から注目されており、光源としての商品化も進みつつあるが、X線を含む短波長領域の利用のためには、GeV(ギガ電子ボルト)程度の高エネルギの電子ビームを大きな定常磁場で曲げる必要があり、現場での活用が期待できるほどの小型化は困難であった。

(内容)
小型電子蓄積リングにターゲットを挿入して高輝度X線発生

 本新技術は、小型放射光装置の10分の1程度の規模(例えば電子エネルギー50メガ電子ボルト、軌道半径15センチメートル)の電子蓄積リングをベースとした、軟X線から硬X線領域までをカバーする高輝度X線源に関するものである。
 本新技術によってX線を発生させる機構は、シンクロトロン放射ではなく、電子ビーム軌道上に薄膜または細線状の固体ターゲットを挿入して、制動放射を行わせるものである(別添図)。本新技術においては、X線の吸収が少ない薄いターゲットを透過した電子ビームを繰り返し利用することにより、膨大な数のターゲットからの制動放射の総和を取り出すのと同等の効果を得ることができるので、電子のエネルギーが高効率でX線に変換される。電子蓄積リングとしては低エネルギーの電子ビームでもX線領域全体を含む広い短波長領域での制動放射が得られるので、小型化が図れる。具体例として、軌道半径約15p、電子エネルギーが50MeV(メガ電子ボルト)のリングを使用できる。この程度の電子エネルギーでも電子は高速であるため、(1)電子ビームはターゲットを突き抜け、電子蓄積リングの軌道を走りながら加速されて戻り、繰り返し利用を可能とする、ことに加え、(2)制動放射の方向は、電子ビームの接線方向前方(電子ビームがターゲットに入射する方向)に集中するので、制動X線が広がりの少ないビームの形で発生するため効率よく取り出すことができる。さらに光源の大きさは実効的にターゲット上の電子ビームに曝されている部分に限定されるので、高輝度となる。
 本装置の主要部は、電子蓄積リング、および電子を加速しリングに入射する加速器(入射器)からなる。電子蓄積リングを小型でかつ常電導磁石使用のものとするとともに入射器も小型のものを使用でき、全体の占有面積を10uの程度にできる。

(効果)
物質分析、医療診断、微細加工への利用

  本技術による電子蓄積リング型X線発生装置は次のような特徴を持つ。

(1) 軟X線から硬X線までの高輝度光源である。
(2) 高速電子ビームを用いるため、広がりの小さな放射が得られる。
(3) 従来放射光装置よりも電子エネルギーが低いため比較的小型かつ安価にできる。

従って、以下のような高度技術の実用化・普及や新たなX線利用分野の開拓に利用が期待される。

(1) タンパク質の結晶解析など、生物、材料の分野における物質分析
(2) 循環器系疾患の低侵襲診断など、医療診断
(3) X線リソグラフィーなど、微細加工




This page updated on May 6, 1999

Copyrigh© 1999 JapanScienceandTechnologyCorporation.

www-pr@jst.go.jp