土居バイオアシンメトリプロジェクト


1.総括責任者
土居 洋文(富士通研究所情報社会科学研究所 主任研究員)
2.研究の概要
 私達の体は外見上、左右対称である。しかし、体の内部は心臓は左に、肝臓は右に、といった具合に非対称(アシンメトリ)になっている。イモリの受精卵が2分裂したとき、2個の細胞を分離して別々に発生させると、一方からは左右が正常に形成されたイモリが生まれるが、もう片方からは左右が逆転した個体ができてくる。このことから細胞分裂も非対称であることが示唆される。一個の細胞である受精卵から筋肉や神経など特定の機能を発揮する異なった細胞が分化するとともに、それらの細胞が集まって組織、器官あるいは手や足といった生物の体を形作る形態形成の過程が矛盾なく実行されるのは、細胞分裂における何らかの非対称性によって異なったポテンシャルを持つ細胞が生み出されるからであると考えることができる。
 細胞分裂の非対称性に関わる生体分子として重要なものに細胞分化を支配する染色体DNAと染色体の分配に関わり形態形成を支配する中心体がある。染色体DNAや中心体は2本のDNA、あるいは、2つの蛋白質が一組となって分子が構成されている。これらの分子が複製する際には一組の分子が2つに分かれたあと、それぞれに対応する新しいDNAあるいは蛋白質が合成されて複製が完了する。このような複製では元の古いものと新しく合成されたものがペア(半保存的な複製)になることにより、非対称性が生み出されると考えられる。また、半保存的に複製された染色体DNAと中心体が細胞分裂時に新旧に従って非対称に分配されることにより、細胞分化と形態形成が矛盾なく実行されると考えられるが、今日までこのような観点から生命現象の解明が試みられた例はほとんどなかった。
 本研究主題は染色体DNA、中心体の細胞分裂時の半保存的な複製に起因する新旧に従った非対称な分配が細胞の非対称性を生みだし、これにより細胞分化と形態形成が矛盾なく実行されるという観点に立ち、その機構解明を目指すものである。具体的には、正常あるいは遺伝的に改変した線虫やホヤなどを用い受精卵から比較的初期の発生の時期において、染色体DNA、中心体の非対称な分配の役割を光学顕微鏡的、分子生物学的に探る。また、非対称分配による細胞分化・形態形成の新概念の形成を計算機を駆使して生物実験と連携させて行う。
 このような研究は、非対称な分配が生物現象の根元にあるという概念に基づいて実験解析を展開し、細胞分化と形態形成の機構を明らかにしようとするものであり、染色体異常などの疾病の原因解明と診断などの医療分野や非対称な分配を機軸とする計算機ソフトの開発など計算科学分野に寄与するものと期待される。
3.研究期間
平成 7年10月 1日から平成12年 9月30日まで


This page updated on April 14, 1999

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