薄膜流下式蒸発による無放流汚水処理システム


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
望まれていた自動化や維持管理が容易な無放流汚水処理システム

 一般廃棄物や産業廃棄物の管理型最終処分場では、処分場からしみ出てくる浸出水の処理が問題となる。そのため、現在、処分場の底にゴムシートや粘土層を配置し河川や地下水などが汚染するのを防いでいる。浸出水は、河川などを汚染する原因となる物質の濃度が高いことに加え、廃棄物の種類や廃棄物処理場に雨が降ったりすると浸出水に含まれる汚染物質の種類が大幅に変化するため、各種微生物によって有機物を分解する方法のほか、活性炭に汚染物質を吸着させて除去する方法、キレート樹脂を用い重金属を除去する方法などを組み合わせた複雑なプロセスによる処理をして河川などの公共用水域へ放流されている。

(内容)
汚水の水分を蒸発させて凝縮水を得、さらに微生物を用いて揮発性有機物などを除去し、無放流汚水処理を実現

 本新技術は、浸出水などの汚水から固形物を除去した後、加熱した管の内面にこの汚水を薄膜状にして流下させて効率的に水分を蒸発させ、凝縮水を得た後、微生物により凝縮水中に含まれる揮発性有機物などを分解除去することで再利用水を得、水を放流しない無放流汚水処理を実現するものである。
 本研究者らは、工場廃水などを放流せず再利用すること(無放流)を目的とした研究をおこなっていたが、その中で、従来の処理法は(1)プロセスが複雑なため、システム全体のバランスのとれた運転に熟練を要する、(2)微生物によって有機物を分解するプロセスにたよっているため、汚水量が変化したり、微生物に有害な物質が混入するなどの影響を受け、安定した運転が難しい、(3)微生物が増殖し、汚泥(微生物)が多量に発生する、(4)塩類などの除去はこれらの方法でも困難なため、さらに高度な再利用技術が必要であり、実用化への問題が多い、ことを示した。そして、これらを解決するため汚水の水分を蒸発させて凝縮水を得、これに含まれる揮発性有機物などを除去するするため微生物などを利用し分解除去する方法が有効であることを実験室規模で確認した。この方法は、システムの自動化や維持管理が容易で、かつ、薬品などの使用量が少なく、最終的に発生する汚泥の発生量も少なくなるため、特に浸出水の処理に有効である見通しを得た。
 本システムは、(1)前処理設備、(2)薄膜流下式蒸発設備、(3)凝縮設備、(4)生物処理設備により構成される(図1)。

(1) 前処理設備は、汚水中の固形物をスクリーンや沈殿槽で除去する。
(2) 薄膜流下式蒸発設備は、本新技術の中心構成部で、給水ポンプ、予熱器、加熱管、セパレータなどからなり固形物を除去した汚水を加熱管内部へ薄膜状に供給することで、加熱管内面上部から下部に向かって水分を蒸発させながら汚水の濃縮をおこない、セパレータにより蒸気と濃縮液の分離をおこなう。この加熱管内部では、上部から下部に向かって汚水が薄膜状に流下するので、下部においても水圧がかからず均等に蒸発が進行する。さらに、凝縮設備に配置された真空ポンプにより減圧されることで効率よく蒸発がおこなわれる(図2図3)。
(3) 凝縮設備は、凝縮器や真空ポンプなどからなり、薄膜流下式蒸発設備より真空ポンプで導かれた蒸気を凝縮させ、凝縮水を得る。
(4) 生物処理設備は、生物膜ろ過槽、ろ材層などからなり、凝縮設備により回収された凝縮水中の揮発性有機物などをろ材に付着した微生物により処理することで再利用水として利用が可能な水質にする。

 本システムは、汚染濃度が高く、かつ、水質が大幅変動する汚水に対しても安定した汚水処理が可能で、処理工程が少ないことからシステムの維持管理が容易で、かつ、少量の薬品による処理が可能で、最終的に発生する汚泥や廃棄の必要のある使用済薬品などの発生量が少ない無放流汚水処理を実現するものである。

(効果)
廃棄物最終処分場の浸出水や工場廃液などの汚水処理に広く利用されることが期待される。

 本新技術によるシステムは次のような特徴を持つ。

(1) 薄膜流下式蒸発により、高濃度かつ大幅な水質変動に対応できる。
(2) 回収水は、工業用水などとして再利用ができる。
(3) 薬品などの使用量が少なく、最終的に発生する汚泥や使用済薬品などの発生量が少ない。

従って

(1) 廃棄物最終処分場の浸出水処理。
(2) 食品・化学工場の廃液処理。
(3) 下水の返流水(下水汚泥の脱水により発生する汚水)処理。

などに広く利用されることが期待される。


This page updated on May 13, 1999

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