ハードディスク用接触型薄膜磁気ヘッド


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
高密度記録化を可能とするために望まれていた、接触型のハードディスク用磁気ヘッド

 近年、マルチメディアの出現により情報処理機器の大容量化が一段と進み、ハードディスクについても現在、記録面密度400Mbit/inch2を示すに至っている。ハードディスクドライブは磁気の原理を利用して記録や再生を行う装置で、主に磁気ヘッドと磁気ディスクからなっている。記録・再生の原理は、磁気ヘッドからは記録させたい情報を磁気信号として出力して磁気ディスク上に小さな磁石を作り、その磁石のN極とS極がどちらに向いているかで記録させ、また、小さな磁石から出ている磁気信号を磁気ヘッドで読み取ることで再生を行うものである。このハードディスクドライブは、現在、磁気ヘッドが磨耗するなどの問題から、磁気ディスクから磁気ヘッドを浮上させて記録・再生を行う方式を用いている。しかしながら、磁気ヘッドが磁気ディスクから遠ざかると、出力される磁気信号が広がってしまうため、小さな磁石がたくさんできなくなり、一定の面積に記録できる量(記録密度)が小さくなってしまう。従って、記録密度を大きくするためには、磁気ヘッドを磁気ディスクに接触させて記録・再生を行う磁気ヘッドが望まれている。
 このような要請から、これまでに半導体技術を応用して製造した超薄型・軽量の磁気信号出力装置(薄膜ヘッドチップ)をゴムのような弾性をもった薄い板(サスペンション)に接合し、かつ、接触する部分を非常に磨耗しにくい材料で囲った接触型の磁気ヘッドが提案されてきた。この構造は磁気ヘッドを磁気ディスクにやさしく押しつけることができ、接触部分を磨耗させないことなどで接触型磁気ヘッドを実現しようとするものである。しかしながら、磁気ヘッドの高精度加工技術が確立されていないため、磁気ディスク上を磁気ヘッドが走行する際に、複雑な振動が発生するなどの理由から、実用化には至っていない。
 このような接触型磁気ヘッドの製造工程は主に(1)薄膜ヘッドチップの形成、(2)サスペンションの形成、(3)薄膜ヘッドチップとサスペンションとの接合、からなる。このうち、薄膜ヘッドチップおよびサスペンションはともに半導体素子の製造に用いられる薄膜形成技術を利用しており、これ自体は高精度の加工は容易である。しかしながら、薄膜ヘッドチップとサスペンションとの接合を高精度で行うことは困難で、この接合技術が磁気ヘッド全体としての性能を左右する。逆にいえば、磁気ヘッド全体の性能を高めるためには、薄膜ヘッドチップとサスペンションとの高精度接合技術が重要である。更に、この接合工程は磁気信号の出力に影響を及ぼす磁性材料の特性保持のため比較的低温で処理する必要がある。これまでハンダによる接合が試みられてきたが、この方法はハンダの厚みに不均一性が生ずるなどハンダの使用自体が精度低下の原因となる。このため、本研究者らはこのようなハンダを用いずに薄膜ヘッドチップとサスペンションとを直接、接合する方法について検討を行い、両者に金を薄くつけ、さらにこれらを超音波を用いて接合する手法を見出した。

(内容)
磁気ヘッド全体の性能を支配する薄膜ヘッドチップ−サスペンションの高精度接合技術を確立することで、世界で初めての接触型磁気ヘッドの開発に見通し

 本新技術は薄膜ヘッドチップおよびサスペンションに各々金を薄くつけ、さらに薄膜ヘッドチップとサスペンションにつけた金同士を超音波を用いて接合することで、両者の高精度接合を可能とするものである。本方法は(1)室温下での超音波を用いた微小振動のエネルギーにより、金と金との界面において、金原子が互いに行き来する作用(相互拡散)を利用した接合であるため、サスペンションの歪みや磁性材料の特性劣化は生じない、(2)薄膜技術により精密形成した金同士を直接接合するため厚み方向の接合精度が高い、(3)併せて、精密に位置決めした状態を保持したまま接合が可能であるため、平面方向の接合精度が高い、などの特徴がある。本方法は、研究者らがシミュレーションにより確認した金同士が比較的低温下においても相互拡散しやすいという知見に基づいている。
 本新技術により、磁気ヘッドの高精度加工が可能となるため、振動などの問題がなくなり、量産にも適していることから、世界で初めての接触型磁気ヘッドの開発に見通しを得た。

(効果)
各種ハードディスク用磁気ヘッドへの利用が期待される

本新技術は、

(1) 接触型の磁気ヘッドのため、高密度記録が可能となる。
(2) 浮上型の磁気ヘッドに比べ工程が簡単である。
(3) 量産に適する。

などの特徴をもつためパーソナル・コンピュータのバッファメモリ用磁気ヘッドなど各種ハードディスク用磁気ヘッドに広く利用が期待される。

 
(注1) 薄膜ヘッドチップ 磁気ディスクに情報を記録・再生するための磁気コアやコイルを内蔵したチップで、特に半導体技術などを利用して薄型・軽量化を図った部品。


This page updated on May 13, 1999

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