最大値記憶型変位センサ


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
必要な構造物の異常変形がなかったことを確認できる簡易センサ

 建築物や橋梁などの構造物の安全性評価や維持保全には、構造物の異常な変形(変位)を検知することが重要である。特に、荷重が取り除かれることなどで形状が回復しても、一時的な変形により構造物が劣化する恐れのある場合には、過去に許容範囲を越える変形を経ていないことを確認する必要がある。このような目的のために従来、歪みゲージなどを用いているが、この場合、常に変位を検出可能な状態に保つために電源などを要し、またセンサ自身は記憶機能を持たぬため、検出した変位を記憶(記録)する機構などを要し、システムが複雑化し易く、必ずしも導入し易いものではなかった。このため、実際に異常変形がなかったことを簡単に確認できるセンサが望まれていた。

(内容)
構造物の変位により炭素繊維などを破断するという単純な構造、動作原理により変位の最大値を検出・記憶

 本新技術は、力を受けて変形した構造物の変位の最大値を検出し記憶するセンサに関し、適当な電気抵抗をもつ線(以下「検出線」と呼ぶ。)をあらかじめ設定した変位に対応させて複数用意するとともに、構造物の変位に連動してこの線を切断する適当な機構を設け、構造物が変形した場合にセンサ取り付け点の変位に対応した線が破断することにより、所定の変位が生じたことを検出・記憶できるようにしたものである。読み取りは電気抵抗の測定または目視によって行うことができる。検出線の素材としては、炭素繊維が次の性質により適している。(1)引っ張り強さが大きい。(2)伸びにくい(伸度が小さい)。(3)小さな折り曲げ力(剪断力)で破断する。(4)測定に利用しやすい電気抵抗を有する。(5)化学的に安定性が高い。特に、(2)、(3)は折り曲げ(剪断)により、変位が設定値に達した瞬間に検出線を確実に破断できることを保証している。
 センサ設置は、変位を検出したい構造物の部位に応じて様々なスパン(渡し)で取り付けれるようにする。また、必要により電気抵抗の段階的変化を伝送信号に変換するための伝送部と合わせてユニット化し、オンライン監視などに対応する。

(効果)
 期待される建築物、橋梁の維持保全などへの利用

本新技術による変位センサは次のような特徴を持つ。

(1) 変位の最大値を明確かつ不可逆な素子構造の変化として保持するため、電源や常時監視が必ずしも必要ない。
(2) 広い測定レンジに対応可能で、瞬間的な変位も確実に捕らえることができる。
(3) 構造と動作原理が単純で、信頼性が高い。
(4) 変位読み取りを電気的に行えるため伝送・情報処理系との整合性が高い。また、目視による読み取りも可能である。

従って、

(1) 構造物(建築物、橋梁、地盤、車両、船舶、航空機など)の維持保全
(2) 構造物の安全性評価
(3) 地震観測など

への利用が期待される。

 
(注1) 歪みゲージ
金属や半導体が歪むとその電気抵抗が変化することを利用して、歪みを検出するセンサ。
(注2) 変位
物体の移動により生じた位置の変化の量を変位と呼ぶ。


This page updated on May 14, 1999

Copyright 1999 JapanScienceandTechnologyCorporation.

www-pr@jst.go.jp